過去にも承認の事例があった

ここにおいて、バイオジェンは「オープンラベル」でアデュカヌマブの10ミリグラム投与を希望する治験者に続けることを公表したのだった。

これは、薬の安全性と効果を測定する「フェーズ3B」の治験として設計される。

結果的に、EMERGE、ENGAGEの治験に参加した3000人余りの人々のうち2400人が参加をし、第3の治験「EMBARK」は2020年8月から始まっている。

したがって2021年の1月には、24週の時点でのデータがとれるということになる。

このデータをバイオジェンはFDAに提出したのではないか?

ただしこの治験は弱点もある。「オープンラベル」は、すべて実薬ということだ。同時期に比較するプラセボがない。比較は、以前行ったEMERGE、ENGAGEのプラセボとの比較になる。

実はアルツハイマー病に関しては、治療する薬がないため、FDAは、過去にある薬を承認した実例がある。エーザイ「アリセプト」の前にFDAは、ワーナー・ランバートの「コグネックス」という薬を1993年に承認している。「コグネックス」は、「アリセプト」と同じ薬理のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤だが、肝機能障害をおこすという副作用の弱点があり、いったんは承認が見送られる。だが、このときにとられた方法が、やはり「オープンラベル」の試験的新薬運用という制度だった。

下山進『アルツハイマー征服』(新潮社)
下山進『アルツハイマー征服』(KADOKAWA)

病気に対する治療薬がない場合に、多少の弱点があっても承認をする──、ということをFDAはやってきたのである。

「アリセプト」や「タクリン」は対症療法薬で、根本治療薬ではない。

しかし、今度は病気の進行自体に直接介入する根本治療薬だ。

患者や介護者の団体は、承認を強く求めている。

バイオジェンとエーザイの株価は再び急騰している。

運命の日は、今年6月7日までということになった。

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