第3の「治験」途中結果を提出か?

さて、では、今回の結果の公表を3月7日から6月7日に延長する発表は、承認に対してはポジティブにとらえていいのか、ネガティブにとらえたらいいのか。

これは、素直に考えれば、ポジティブにとらえるべきだろう。

もともとFDAは、外部諮問委員会の前にインターネット上に寄せられた見解から考えても、承認に前のめりだった。しかし、治験の結果が完全ではなかったので、外部諮問委員会のお墨付をえて、承認にもっていこうとした。ところが、そのあてが外れてしまったかっこうだ。

承認するにしても、それを説得する新たな材料がなくてはならない。それがバイオジェンの公表した追加提出を求められたデータなのではないか?

では、その新たな材料とは何なのか? バイオジェンもFDAも一切公表していないが、ひとつ考えられるのは、EMBARKという第3の「治験」の途中結果だ。

アルフレッド・サンドロック。”ドラックハンター”の異名をとる米国製薬会社バイオジェンの役員
アルフレッド・サンドロック。”ドラックハンター”の異名をとる米国製薬会社バイオジェンの役員。「アデュカヌマブ」をチューリッヒの医療ベンチャーから導入し、承認申請まで漕ぎ着けた。

説明が必要だろう。アデュカヌマブは難産の薬である。実はEMERGEとENGAGEからなるアデュカヌマブのフェーズ3治験は、2019年3月に「中間解析」の結果中止されているのである。

「中間解析」は治験の費用があまりにもかかりすぎるために近年開発された統計的な手法で、途中の時点でデータをみて、統計学的に治験を続けても無意味だと考えれば中止する。このときは、2018年12月26日までに18カ月に治験の期間を終えた1748人のデータをもとに行われた。その結果は、バイオジェンは「無益」だという結果をえて、開発の中止を発表するのである。

が、この12月26日から治験の中止が発表になる3月21日の間にも治験は行われていたのだ。その分のデータ2066人の分が中止発表後、バイオジェンに入ってきて、結果は逆転する。理由は10ミリグラムの高容量を投与されたグループは、この後の2066人に多く入っていたからだ。

このようして、それらのデータを加えたものでバイオジェンは昨年7月に承認申請は果たしたのである。

問題は、薬の投与が中止された治験に参加した人々のことだった。