アルツハイマー病の進行そのものに直接介入する初めての根本治療薬の承認なるか?
フェーズ3までの治験を終えて米欧日で承認申請を終えたバイオジェンとエーザイ共同開発の薬「アデュカヌマブ」。昨年11月の外部諮問委員会の否定的な評決でその承認は遠のいたように見えた。が、1月29日、バイオジェンはFDA(アメリカ食品医薬品局)から追加の治験データの提出を求められたことを明らかにし、承認結果の出る期限が3カ月延長されたことを発表した。
アデュカヌマブを発見した科学者をはじめ、バイオジェン・エーザイの両治験チームにも取材した大型ノンフィクション『アルツハイマー征服』(KADOKAWA)。その著者であるノンフィクション作家の下山進氏が、この「3カ月延長」の意味を解説する――。
脳のX線撮影
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FDAは治験結果を「高い説得力を持つ」と考えている

バイオジェンとエーザイの株が乱高下している。その理由について、私は東洋経済オンラインの記事「アルツハイマー病『根本治療薬』が迎えた正念場」(1月11日付)で、「矛盾するフェーズ3のふたつの治験結果にある」と指摘した。

バイオジェンは1500人規模の治験をふたつ行ったが、その二つが正反対の結果になっている。EMERGEと呼ばれる治験グループは認知機能の評価項目を全て達したのに対し、ENGAGEと呼ばれる治験グループでは、投与をうけた群がプラセボ群より悪い結果が出ている。バイオジェンの主張は、0、1、3、5、10ミリグラム投与の各グループで、高容量のものだけをみれば、ENGAGEでも結果は出ている、というもの。

が、これを「非科学的」と切って捨てたのが、昨年11月6日の外部諮問委員会だった。

外部諮問委員会は、FDAが外部の識者を11人集めて薬の承認の可否について議論をさせる公開の会議だ。

開催前にインターネット上にあげられたFDA側の文書には、「FDAはバイオジェンの302治験結果について高い説得力をもつと考えている。アデュカヌマブの有効性の確固としたエビデンスを現す治験だ」といった文章があったことから、バイオジェンの株価は45パーセントも上昇、翌日のエーザイはストップ高となった。

しかし、諮問委員会の評決では委員長ひとりが賛成票を投じ、2人が保留、8人が反対票を投じた。議論を聞いていると委員のなかには、FDAのやりかたは、承認を前提としているようで「不愉快だ」と怒っている委員もいた。

11人の招聘された委員は、実はアルツハイマー病を専門とする人は少ない。アルツハイマー病の研究者の場合、バイオジェンの治験等にかかわっていることが多いことから、利益相反になると考えられ、除外されるのである。

アルツハイマー病を専門とする研究者のなかには、諮問委員会は、データに踏み込んだつっこんだ議論ができなかったと、と考える専門家もいる。

東京大学医学部の岩坪威教授もその一人だ。

「医学・科学的な本質が議論されないまま、有効性を支持する見解が否定された。データまで踏み込んだ科学的な議論はほとんどなく研究者としては、そこが残念だった」