消費支出が伸びた時期にも百貨店は厳しかった
しかし、百貨店は業界全体で厳しい数字が続いています。もう一度先ほどの図表2の「全国百貨店売上高」を見ていただくと、消費支出同様に2019年10月の消費増税前後では、大きく上下しています。百貨店では比較的単価の高い商品を売るために、駆け込み需要とその反動が大きいのです。
そして、コロナの影響が出始めたころから、落ち込みがとても大きく出ています。まず、2020年の2月ですが、消費支出全体では-0.3%ですが、百貨店では12.1%のマイナスです。これはインバウンド、とくに中国の春節に合わせた訪日客が大幅に減少したことが影響しています。
そして、3月は日本国内でも消費が大きく下がる中で、百貨店も前年比で33.4%の売上減少となりました。緊急事態宣言が出た4~5月は、多くの百貨店で食料品売り場以外は閉館のところが多かったので、それぞれ前年比マイナス72.8%、65.6%と大幅なマイナスとなりました。
そして、注意して見なければならないのは、1回目の緊急事態宣言が解除された後も比較的大きなマイナスが続いたことです。10月はマイナス幅が1.7%と小さかったですが、これは、前年が消費増税の影響で-17.5%だったことが大きく影響しています。11月は、先ほども述べたように、消費支出全体では1.1%伸びたにもかかわらず、百貨店は-14.3%となっています。百貨店の数字が全く戻っていないのです。ちなみに、百貨店も含めた小売業全体の数字では、11月は前年比で0.7%のプラスとなっています。にもかかわらず、百貨店だけ取り残されてしまっているのです。
百貨店にとっては今後も厳しい状況が続くことも予想されます。これまで業績を支えてきたインバウンド消費がしばらくは期待できません。訪日客は、化粧品や宝飾品、高級時計などをたくさん買っていましたが、少なくとも数年間は元に戻ることはないでしょう。
デパ地下以外はガラガラ、百貨店の「寿命」
筆者が百貨店に関して心配しているのは、その業態としての「寿命」です。
おおざっぱに言うと、百貨店はピーク時に比べて売り上げが半減しています。近年、地方では百貨店が閉店したところも多く、県によっては百貨店がひとつもなくなってしまったところもあります。
今回のコロナ禍でも地方では閉店が続きました。経済力の弱い地方経済では、百貨店を支えられなくなっているのです。都心の百貨店も、主にスイーツや総菜など食品を扱うデパ地下は夕方になるとテイクアウト需要でにぎわっていますが、洋服などを扱う「上の階」はガラガラな印象です。
そうしたジリ貧の百貨店とは対照的に元気なのがネット販売です。人々のショッピングの仕方や流通が多様化する中で、百貨店のビジネスモデルが今後もどこまで通用するのか。
大手百貨店の中には強みである既存の富裕層顧客に投資信託などを紹介するビジネスを展開しているところもありますが、従来のビジネスモデルの転換が求められる時期にあることは間違いありません。コロナ禍を切り抜けつつ、ビジネスモデルも転換する。そんな難しいかじ取りが経営陣には求められるのです。