受診控えで“客単価”を増やすよう求められている

「ごくごく軽い初期症状で受診してコロナやインフルエンザといった感染症を持ち帰ることになれば元も子もない」。このような認識がもたらした受療行動の変容は、医療機関の使い方が適正化したものとみることもできる。しかしその一方で、軽症者の受診控えは医業収入を直撃する。むろんそればかりが要因ではないが、街場の診療所を中心に、少なくない医療機関で例年同月比で3〜5割の収入減による経営悪化を来している。私も勤務する医療機関の経営サイドから、なんとか受診者を増やすよう、なんとか“客単価”を増やすよう求められている現状だ。

もちろん受診者激減でも受診の必要性がない人ばかりであれば問題はない。しかし懸念されるのは、早期受診が必要な人までコロナを恐れるあまりに受診を躊躇ためらってしまっていないか、ということだ。要受診者の受診控えがあるならば、それをいかに解決すべきかを真剣に考えねばならない。

発熱者の受け入れは要受診者の受診控えを招く

医師会はインフルエンザ流行を前に、すべての身近な診療所が発熱者の診療をするよう呼びかけている。たしかに発熱者の受け入れを拒む医療機関が続出することによって、これらの患者さんが行き場を失うことになってはならない。しかし、それと一般の診療所、どのかかりつけ医でも発熱者の対応をすべきというのは別問題だ。

すべての診療所に発熱者が立ち入ることになれば、コロナ、インフルエンザ双方の院内感染と流行が引き起こされることになる。なぜなら多くの診療所はその構造上、発熱者と非発熱者とを動線および待合室で確実に分離することが困難だからだ。かえって要受診者の受診控えにも歯止めがかからなくなってしまうだろう。

この問題については、プレジデントオンラインで9月9日に配信された「『インフルとコロナのWパンチ』医師が危惧する待合室のカオス化」ですでに指摘し、冬に向けて早急に医療・検査体制を整えるよう訴えていた。しかしその後、行われたのは、感染症が疑われる人の診療に特化した医療機関の選定・設置ではなく、全国に「診療・検査医療機関」という発熱者の診察“も”行う医療機関を手挙げ方式で募集し指定するという施策のみだ。

厚生労働省は、これら指定医療機関が11月10日時点で全国に2万4629カ所存在すると胸を張るが、これらの数が増えれば万全だということにはまったくならない。