オンライン診療推奨の今シーズンは“取りあえず処方”が増える
急な発熱に対しては“取りあえず解熱剤”だけでなく、“取りあえず抗菌薬(抗生物質)”という処方をされたという患者さんも少なくない。冬場であれば“取りあえずタミフル”という処方もよく見かける。もちろん発熱者の中には本当に抗菌薬を必要とする疾患の人もいるだろうし、インフルエンザの場合もあるだろう。しかしこれらは、取りあえず飲んでみて様子を見ましょう、という薬ではない。診断をつけたうえで、しかも治療上必要と認めた場合に限って処方されるべきものだ。決して、安心のため念のために飲んでおこうというものでもない。
もっとも、なにか処方しないと患者さんに満足してもらえないとか、なにも処方しないで帰すよりは“客単価”を上げることができるという、医学的根拠のない処方がなされることも、じっさいにはあるにはあろうが、それならなおのこと誤りだ。しかしこういった“取りあえず抗菌薬”、“取りあえずタミフル”という薬の誤用が、今シーズンは例年にも増して乱発されてしまうのではないかとの危惧を私は抱いている。
政府はこれまで初診の患者さんには原則適用外としてきたオンライン診療を、コロナ禍を機に、限定的とはいえ初診の患者さんにも拡大する方針を打ち出した。これによって、例えば高血圧治療でかかりつけている患者さんが急な熱発をした場合なども、オンライン診療で投薬することが可能となる。
オンラインだから当然ながら検査はできないし、診察といっても所見を正確に取ることは困難だ。問診だけオンラインで行って対面診察に切り替えるのであれば問題ないが、不十分なオンライン診察で完結しようとした場合、この“取りあえず処方”が行われる可能性があるのだ。
携帯電話越しの問診のみで薬が処方された例も…
オンライン診療に限ったことではない。いわゆる「診療・検査医療機関」であっても、その施設の構造あるいはスタッフの防護体制によっては、同様に不十分な診察のもとでの“取りあえず処方”が起こり得る。
じっさい患者さんから耳にした話だが、発熱したためPCR検査を屋外で行うことが可能な医療機関を受診したものの、PCR検査後の診察は医師によって直接行われることなく、携帯電話越しでの問診のみで“取りあえず抗菌薬”が処方されたという。
これがレアケースであることを祈るばかりだが、今後、コロナとインフルエンザの同時大流行が発生した場合に、医療機関側の感染防護策として発熱者を直接診察することをやめ、問診のみで薬だけ処方するというケースが増えてこないとも限らない。そしてその場合、“取りあえず抗菌薬”や“取りあえずタミフル”、さらには“取りあえず抗菌薬とタミフル”という最悪のダブル処方さえ行われる可能性が否定できないのだ。