迅速な決断が奏功し昨年の約2倍を通販で出荷

コロナ禍により観光客の姿が消えた2020年の6月。さくらんぼ狩りの最盛期を迎えようとしていた王将果樹園は、観光農園の休業を余儀なくされていた。何もしなければ売り上げが半減してしまうという危機を王将果樹園は、観光農園用のさくらんぼをオンラインなどの通販で完売することで乗り切る。このいきさつは複数のメディアが取り上げており、ご存じの方もおられるかもしれない。

この時期、テイクアウトに力を入れるレストランなど、販売形態の切り替えは各所で試みられていた。そのなかにあって王将果樹園が注目を集めたのは、新たなオペレーションへの切り替えが早かったからである。この動きを地域のDMC(Destination Management Company)との連携が支え、地域の人たちの前向きな気持ちを引き出す役割も果たしていた。

王将果樹園は、将棋の駒の産地として有名な山形県天童市にあって、さくらんぼに加えて桃、ぶどう、梨などの各種の果実を約10ヘクタールの農園で栽培している。スタッフ数は20名ほどである。実った果物をスタッフ総出で摘み取り、自社サイトでのネット通販などによって出荷するとともに、摘み取り切れない分は観光農園に回していた。観光農園にはカフェなどを併設し、仙台市や首都圏などから多くの観光客を受け入れていた。

観光果樹園でさくらんぼを収穫する矢萩代表
写真提供=王将果樹園
観光果樹園でさくらんぼを収穫する矢萩代表

従前の王将果樹園の売り上げは、オンラインなどの通販と観光農園がおよそ半分ずつという構成だった。最大の稼ぎ時であるさくらんぼシーズンに観光農園を休園することのダメージは大きい。

コロナ禍以前から王将果樹園は、観光農園用以外の果樹園の果実については、オンラインなどの通販で直接販売していた。観光農園用のさくらんぼの新たな販路についても、王将果樹園はこれを活用することができた。4月の全面通販への切り替えを決断してからは、王将果樹園では観光農園を含めた顧客名簿を活用し、ネットやダイレクトメールによるPRを強化するとともに、SNSなどでの発信を強化した。その結果応援の声が集まり、通販への注文は例年以上に増えた。昨年のおよそ2倍を王将果樹園は通販で出荷した。

ボトルネックは人手不足

しかし、この切り替えは、すんなりと実現したわけではない。現場のオペレーションは、複数の要素がかみ合わなければ動かない。王将果樹園の切り替えにおけるボトルネックは、販売とは別のところにあった。

さくらんぼという果実は繊細で、小さく、数が多い。そして初夏の早朝の気温が低い時間帯に一気に摘み取り、その日のうちに出荷しなければ、あのみずみずしい味わいは保てない。ここに課題があった。さくらんぼの摘み取りには、他の果実と比べて多くの人手を要する。王将果樹園ではスタッフで作業をこなしきれない分を、観光農園に回していた。