企業は在宅勤務のパソコン、ワークスペース環境の整備の負担をしない

じつは④のようにテレワーク推進の裏で人件費を含む固定費の削減も進んでいる。テレワークは通勤時間の分だけ自由な時間が増え、自由度の高い働き方として官民を挙げて推奨されているが、一方で従来のオフィススペースを削減し、フリーアドレス制(自席がない)を導入する企業が増えている。

自宅で働く母
写真=iStock.com/kohei_hara
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当然、会社にとってはオフィス賃料が少なくてすむ上に、通勤定期代の支給を廃止し、実費精算に切り替えるなどコスト削減効果も大きい。

一方で社員は負担増になる。テレワークの長期化によって在宅勤務に必要なパソコンや機材、机や椅子などワークスペース環境の整備の負担だけではなく、通信費や暖房を含む光熱費などのランニングコストも負担しないといけない。

そのための費用として「在宅勤務手当」を支給する企業もあるが、まだ一部の企業にすぎない。労働基準法では、労働者に情報通信機器、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合は就業規則に規定する必要がある(89条第5号)。就業規則は労使で話し合って決める必要があるが、じつはそうした規定がないままに社員に負担を強いている労基法違反企業が多いのが実態である。

「テレワーク・ジョブ型」という働き方に反対の人は辞めてほしい

希望退職者募集など⑤のリストラは人件費削減効果が最も大きい。リストラは退職費用など当期だけの“特損”(特別損失)で処理すれば、来期に人件費削減分の利益を生み出すための常套手段として一般化しているが、最近では大手企業のリストラが本格化している。

じつはリストラと同時に構造改革と称する賃金制度改革を実施する企業が多いが、とくに今回注目を集めているのが、年功賃金制度から職務給型(ジョブ型)賃金への移行だ。ジョブ型は職務範囲や評価基準が明確なためにテレワークと相性がよいとされるため、まさに働き方改革を前面に掲げて導入する企業も少なくない。

企業にとってジョブ型は固定費である年功的賃金から脱却できるだけではなく、職務の見直しによる降格・降給も発生するなど人件費をコントロールできるメリットがある。一方、社員は年功的な昇進・昇格などの人事異動がなくなるので、給与を上げるには努力して職務レベルを上げるなど主体的なキャリアの構築が不可欠となる。そのジョブ型導入とリストラを絡めて実施したのが三菱ケミカルだ。

同社は10月に管理職にジョブ型人事制度を本格的に導入したが、一方、11月4日に50歳以上の管理職と再雇用者の2900人を対象に希望退職募集を実施すると発表した。親会社の三菱ケミカルホールディングスのCFO(最高財務責任者)はジョブ型導入の狙いを「活力の高い会社にしたい」と述べ、希望退職募集の理由について「主体的に自分のキャリアを決めてほしい。ご賛同いただけない方には転身を支援する。入社した時はそうじゃなかった、という人のミスマッチを金銭的に解決する」と述べている(『朝日新聞』11月5日付朝刊)。

つまり、テレワーク・ジョブ型という新しい働き方に反対する人は、退職割増金を支払うので会社をやめてほしいと言っている。これも働き方改革に名を借りた人件費削減策と呼べるだろう。

こうした一連の働き方改革は、賃金削減ありきで個人の働きがいや幸せにつながるものとは思えない。ましてや冒頭に紹介した「中間層の厚みを増しつつ、格差の固定化を回避し、成長と分配の好循環を実現する」という国の目標にも逆行し、中間層の減少と格差の固定化を促進していく危険性もはらんでいる。

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