「メールは偽物」と言わぬバイデン陣営

こんなNYPのスクープに最初に強く反応したのはTwitterとFacebookである。TwitterはNYPの記事へのURLをユーザーが閲覧できないようにブロックし、また実際にその記事を拡散しようとしたNYPの幹部やホワイトハウス報道官のものを含む多くの人々のアカウントを凍結した。一方のFacebookも、この記事へのリーチを減らす対策をとった。

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写真=iStock.com/RomanOkopny
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巨大SNSプラットフォームを運営するこれら2社の対応は、明らかに偏ったものであり、もはや検閲ともいえるが、アメリカの大手主要リベラル系メディアもまた、このニュースを「本物かどうかの確証が取れない」などとして、無視を決め込むという対応を行った。

通常であれば、贈収賄や利益相反行為、さらに国民への虚偽説明といった疑惑が出れば、大統領候補にとっては致命傷となりうる。そして、その真偽を求めてマスコミ各社は一気に動き出し、報道合戦が過熱するはずだ。今回の疑惑の主人公が、トランプ大統領やその息子であったとしたら、マスコミのトランプ陣営に対する追及がどれほど苛烈になっていたであろうかは想像に難くない。しかし、リベラル系大手メディアはハンター氏への取材すらまともに行わず、この電子メール情報をNYPに流したのがトランプ派のジュリアーニ元NY市長であるため「信頼性に欠ける」とケチをつけ、さらには同氏がロシアの情報工作に乗せられているとする「匿名の情報機関高官」の話などを載せるなどして世論誘導を試みたのである。

そうして大手メディアに守られたバイデン氏は、トランプ大統領に対し、「息子ハンターのビジネスに関する確証のない疑惑でロシアの偽情報を拡散した」と非難したが、今回の騒動でもっとも興味深いのは、一連のメールが完全な偽物であり、ハンター氏のものではないとする声明が当のバイデン陣営側からはいまだに出されていない点であろう。

通常、なんらかの疑惑がかけられた政治家が、みずからの不正の証拠品を突きつけられ、それに対して何週間も沈黙していたら、マスコミは間違いなく「有罪の可能性」を疑い、徹底的に追及するはずである。しかしフォックス系列のような一部保守系メディアを除けば、高級紙と言われる新聞などを含め、そんな動きはほとんど皆無である。

ロシアの選挙妨害を叫びつつ、プーチンを信用するリベラル派

この一連の疑惑について、最近になって出されたロシアのプーチン大統領の発言が注目された。プーチン氏は「ウクライナで(ハンター氏が)過去に事業を行っていたというのはその通りで、現在も行っているのかもしれないが、それはロシアには関係なく、米国とウクライナに関係がある話だ」とした上で、「私には犯罪的なものは見当たらない。少なくともわれわれは本件については何も承知していない」と述べた。

この発言もリベラル系メディアにかかれば「プーチンがトランプの主張に反論した」とか「バイデン氏への疑惑を否定した」ということになるわけだが、プーチン氏は詰まるところ「ロシアには関係ないし、詳しいことは知らない」と言っているにすぎない。

そもそも、バイデン氏本人や民主党の一部議員が主張し、リベラル系大手メディアの多くも追従しているのは、今回のメール問題はすべて、ロシアから選挙妨害工作の一環として流された偽情報のはずで、そんな彼らが今回のプーチン氏の発言を無条件に信じるのは矛盾しているが、トランプ氏攻撃のためであればそれはどうでも良くなるようだ。

ちなみに最近は、何かまずいことがあるとすぐに「ロシアの陰謀」と主張するのがリベラル系メディアの習いになっているが、かつてトランプ氏のロシア疑惑について、かなり執拗に煽動的な報道を行ってきた彼らから、そんな陰謀の証拠が出されたことなど一度もなかったことは記憶されるべきだ。