「もっと安くしろ」と言われたことはなかった

本当に自由にやらせてもらった、という。

「コストを意識して何かを削ったり、何かを妥協したり、どこかで流行っているからやってほしいと言われたり、もっと安い物にできないかとお願いされたり。こういうことは絶対にありませんでしたね。いい意味でのぶつかり合いはあっても、マイナスにするような動きはなかった」

成城石井のお菓子はこういう味だという骨格のようなものを、会社全体で作っていこうという空気があった。そんな中で「スフレチーズケーキ」などのヒット商品が生まれていく。

「やっぱりそういう時間が必要なんですよ。信頼を醸成するような時間。それがないところでまったく新しいものを出したとしても、埋もれてしまいかねない。その気持ちは最初から持っていましたね」

「3層のチーズケーキ」は誰も見たことがないはず

実は、プレミアムチーズケーキは、入社時から構想を温めていた。

「これはどこの職人もそうだと思うんですが、いろんなところで何かひらめいたらノートに書きためていったりして、これは絶対においしい組み合わせだ、いつかこういうものを作りたい、と考えていたりするんですよ」

それが3層のケーキだった。きび砂糖を使用した素朴でナチュラルな甘さのスポンジ生地があり、クリームチーズをベースにアーモンド、レーズンを加えたチーズケーキ生地があり、表面にはアーモンドプードルで作ったサクサクとしたシュトロイゼルという3層。

「一つひとつのパーツもおいしいんですが、3層になると食感の差が生まれるわけです。さらにチーズケーキの中に入っているレーズンのちょっとした酸味と甘み、アーモンドのスライスした歯ごたえ。クッキーとして食べてもおいしい表面。ただ、成城石井でこれだけ売れていなければ、こんな形のチーズケーキは誰も見たことがなかったんじゃないかと思うんです。実際、今は食べ慣れていますけど、けっこう重たいですしね(笑)」