渋谷にある「目が見えない人」も楽しめる不思議なギャラリー

東京都渋谷区松濤の閑静な住宅街を歩いていると、こんな文字が飛び込んできた。「ぼくたち盲人もロダンを見るけんりがある」。そこは小さなギャラリーだった。独創的で思わず触れたくなるような作品たちを眺めていると「どうか触ってみてください」とスタッフの方が声をかけてくれた。

1996年にギャラリーTOMで開かれた「みんなの要るもの、要らないもの」展で出品された作品。
1996年にギャラリーTOMで開かれた「みんなの要るもの、要らないもの」展で出品された作品(筆者撮影)。

私が訪れたその日は、盲学校に通う生徒が作ったアートを展示していた。「見えないからこそ、他の作品の真似っこができないのでしょう」。そう、館長の村山治江さんは言う。だから、どれも個性的な作品なのだろう。

この場所に“作品を触ってもいい”ギャラリーTOMができて36年。創館当時、目の見えない人のための美術館をつくりたいという村山さんの想いは容易に受け入れてはもらえなかった。一般的な美術館は絵や彫刻の前に人が触れられないように線が引かれている。眺めるようにアートが設置されていることがほとんどだろう。

入り口でひきよせられた「ぼくたち盲人もロダンを見るけんりがある」という言葉は視覚障がいを持つ村山さんの息子、錬さん(故)のものだった。この言葉に突き動かされ、村山さんはTOMをオープンした。「この場所を選んだことにも意味がありました」と村山さんは話す。権力や富を持つ人が集まるこの土地に「白杖をつき訪れる視覚障がい者の存在を示したかった」。