そして、かつて「女子アナ」には3つのタイプしかいなかったのではないかと私は思う。1つ目は、文字通り「女子アナ」に徹するタイプ。「男性受け」を一番に考え、自分の中の「女性性」を最大限に発揮していく。「かわいくてセクシーで、知的な面もある美人です」というタイプだ。大多数の「女子アナ」は、このタイプだと思う。
そして2つ目は、1つ目のタイプの弱点を補った「女性にも受けがいい」タイプだ。「かわいくてセクシーで、知的な面もある美人」みたいなタイプは、残念ながら女性受けは最悪である場合が多い。
「女子アナ」を積極的に受け入れも、拒絶もしない
だから、「健康的」とか、「面白くてさばけている」とか、「ご飯が好きなのでちょっと太っちゃいました、テヘ」みたいな、女性やお年寄りにも好感を持って受け入れられる要素が加味されているのだ。日本テレビの水卜麻美アナウンサーなどは、こちらのタイプだろう。「性格が良さそうで、息子のお嫁さんにしたい良妻賢母タイプ」とでも言えばいいだろうか。
決して水卜アナの性格がどうこう言うわけではないし、水卜アナのことはまったく存じ上げないが、このタイプの「女子アナ」をやれるということは相当賢いし計算高いということだ。1つ目タイプの進化系、と言ってもいいだろうし、1つ目のタイプより上手、と言えるだろう。
3つ目は、「女子アナと呼ばれるのを拒否するタイプ」だ。「自分の外見や若さ、女性性などを売りにして仕事をするのは嫌だ」ということで、ひたすらアナウンススキルを磨いたり、専門分野を持とうと勉強したり、「仕事人」として性別を超えたところで判断されようと頑張る真面目なアナウンサーだ。
ルッキズムに反対し、フェミニストである場合も多い。元TBSの小島慶子さんなんかがこのタイプだろう。女性の一部からは非常に支持されるが、男性の人気は残念ながらそれほど高くないかもしれない。
で、この3つのタイプのいずれにも当てはまらない「ニュータイプ」が、いま登場し始めていると思う。その代表が弘中アナだ。彼女たちは、「女子アナ」であることを積極的に受け入れもしないが、拒絶もしない。そもそも、アナウンサーであること自体、たぶん別にどうでもいい。そんなことに特にこだわりはないのだ。
偶然アナウンサーになった悲劇と飛躍
弘中アナは、Yahoo!ニュースのインタビューで、女子アナ志望ではなかったし、ミスコンにも参加せず、アナウンススクールに通ったことすらなかったと明かしている。総合職でテレビ朝日に入りたかったので、アナウンサーになる気はなかった、という。
かつての「女子アナ」たちが、アナウンサーになるためには「やれるすべてのこと」を必死でやり、命懸けで女子アナを目指したのとは正反対だと言ってもいいだろう。
先ほど、とあるニュース番組の特集コーナーで、「たぶん弘中アナ初の食レポ」のVTRの演出を担当したことがあると書いた。実はその「食レポ」はびっくりするほどヒドい出来栄えだった。食べ方、感想、インタビュー、その他。新人であることを考慮しても、こんなにヒドい食レポは、後にも先にも見たことがない。
今でも印象に深く残っているのは、「実は○○(食べ物の名前)、食べたことがないので、初めて食べるんですよ」とリポートしているのに、それを食べた直後に「これまでに食べた○○の中で一番おいしいです」とリポートしていたことだ。かなり驚いた。
きっと食レポとか興味もなければ、ちゃんと見たこともなかったのだろう。この子アナウンサーとして大丈夫なのか? と正直思ったものである。きっと「アナウンサーに興味がなかったのに、偶然なってしまった」直後ゆえの悲劇だったのだろう。
でも、いま彼女は素晴らしいまでに完璧に「女子アナ」としての役割をこなしている。間違いなくいまテレビ朝日で一番の人気アナウンサーだし、局を超えた人気ランキングでも2位になったりするほどの人気っぷりだ。