体調を崩すと「周囲に迷惑をかける」の謎

日本では有名人が自分の抱負などを語る際に「健康に注意して頑張ります」というような「宣言」をすることがあります。

自分の健康について「気をつけます」などと人前で宣言するのは、ドイツにはない発想です。そのため筆者が昔ある仕事で通訳をした際、日本人のリーダーが「皆さん、体に気をつけて頑張りましょう」と語った時は、これをドイツ語にどう訳したらよいのか困ってしまいました。

ドイツを含むヨーロッパでは別れ際に「健康でいてね」「元気でね」とあいさつすることはあっても、ミーティングの最中などにこういったことを言って相手に発破をかける習慣はありません。

オフィスで心配になる女性
写真=iStock.com/metamorworks
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それにしても「自分の体は自分でコントロールできるものだ」という日本人の信念にはすごいものがあります。これが宗教なのではないかと思うほどです。

風邪をひくことや病気をすることを日本では「周囲への迷惑」と考えがちです。そのため日本では仕事の場などで「私が風邪をひくと皆さんに迷惑がかかりますから」だとか「私が倒れたりすると周りに迷惑がかかりますから」という旨の発言を聞くことがあります。

筆者が「体調が悪くなるのは、周りにとって迷惑なこと」というニッポン風の価値観と初めて接したのは小学生の時でした。

当時通っていた日本人学校で授業中に具合が悪くなってしまい、心配した先生が親に電話してくれたのですが、それを見た同級生の男の子は冷静な口調でこう言いました。「そうやって学校で具合が悪くなるのは、皆に迷惑だ」と。その男の子の家ではおそらく親がそのように教育していたのでしょう。

体調管理でも露見する「体育会系の思考」

逆にドイツの学校では、授業中に具合が悪くなる生徒がいても、本人の責任を問うような発言は先生からも生徒からもありませんでした。冬休みにスキーやスノボに出かけ骨折をし、休み明けに学校を休んだり、ギプスをして学校に現れたりしても、「自己責任」の雰囲気は全くなく、同級生は「ギプスにサインをさせて」と大喜びでした(ドイツにはギプスにサインをして、回復を願う習慣があります)。

「自己責任」が問われないのは学校に限った話ではなく、メルケル首相が数年前のクリスマス休暇中にクロスカントリーで転倒し骨折をした際は、その後3週間公務を控え、外国訪問や外国の首相との会談が延期になりましたが、ドイツでメルケル首相を非難する声は皆無でした。

日本では、「風邪は万病の元」という言い回しがある一方で、風邪というものが軽く見られている気がします。ドイツでは風邪をひいた人は「今病気なんです」という言い方をするので、筆者も日本に来たばかりの頃は風邪をひいた時に「病気です」と言ったら、「風邪は病気ではない」「そんな大げさな」と叱られてしまいました。