その言葉からは、「風邪ぐらいたいしたことないのだから、同情を買おうとするな」「そんなのは精神力で乗り越えろ」というような体育会系的な思考が読み取れるのでした。

ドイツの集団感染で「責任」を押し付けられたマイノリティー

そうはいっても、ドイツでコロナに感染した人に責任を負わせようとする動きが全くないわけではありません。ドイツのノルトライン・ウェストファーレン州にあるTönnies社の食肉工場では6月に従業員1500人以上が新型コロナウイルスに感染していることが確認されました。

集団感染が発覚した後、同社の担当者が記者会見中に「工場で働くルーマニア人やブルガリア人が週末を利用して母国に帰り、その後すぐに仕事に復帰した」と話しましたが、この発言がドイツ非難を浴びました。それというのも、同社が東ヨーロッパからの労働者を劣悪な環境で働かせていたことは既に世間に知られていました。

外国人労働者とTönnies社の間には下請け企業がいくつも入っており、彼らの多くは請負契約でした。同社からあてがわれた部屋は日本で言う「タコ部屋」状態で、何人もの外国人が狭い部屋で寝泊まりを強いられていました。

経費削減の名のもとにそういった人権を無視した働かせ方をしていたのは会社の責任であるのに、担当者は記者会見で積極的にそのことに触れようとはせず、聞き手に外国人労働者が週末に家族に会いに行ったことに非があるかのような印象を与えました。

政治家もマイノリティーを「フル活用」している

そもそもルーマニアやブルガリアを含む東ヨーロッパではコロナウイルスの感染者の数は多くありません。同社で働く外国人はドイツ国内で感染したかもしれないのに、彼らの母国の名前を名指ししたことが差別的だと現地のメディアで問題視されました。

ドイツ人が大量に消費する肉のために、安い賃金で働かされている外国人労働者がいざとなれば今回のように罪をなすりつけられることについて同情をする声もあるものの、「コロナ集団感染は外国人労働者のせいだ」と考える人もおり、ドイツにもとからあった人種差別が露見した形となりました。

ドイツの一部の政治家の振る舞いも世間の外国人差別に拍車をかけています。コロナ対策が緩いことで知られていたノルトライン・ウェストファーレン州のArmin Laschet首相は記者会見の場で食肉工場の集団感染について問い詰められると、「感染は、私が州の規制を緩めたことが原因ではない」と語り、食肉工場の劣悪な労働条件に触れながらも「ルーマニア人とブルガリア人がドイツに入国したことによりウイルスが入ってきた」という言い方をしました。政治家としての自分の責任を追及されないために、東ヨーロッパの労働者の国を名指しし、世間に「外国人が悪い」という印象を与えてしまいました。