「言い訳だらけ」約5600字あったスピーチは2分の1になった

さて、安倍スピーチがもともと(四〇字詰めで)およそ一四○行あったのに比べて、安倍スピーチ「修正A案」は、七七行。およそ二分の一に縮まった。

読んでみると、だいぶすっきりした。枝葉が取れた。そして、元のスピーチが言おうとしていることは、そのまま残っている。

どういう点を削ったのか。

お役所が好む「ただし書き」のたぐいは削った。「ただし書き」は、言い訳である。役人が責任を取りたくないときに、つけ加える。いや、もうこれは役所の習慣で、それ以外の文章の書き方がない。本人は、責任を取りたくないので「言い訳」をしているという意識すらないかもしれない。なお恐ろしい。

たとえば、元の安倍スピーチの〔3〕の段落の後半は、こんなふうだ。

《医療現場は正に危機的な状況です。
イ 現状では、まだ全国的かつ急速な蔓延には至っていないとしても、
ロ 医療提供体制がひっ迫している地域が生じていることを踏まえれば、
ハ もはや時間の猶予はないとの結論に至りました。
この状況は、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがあると判断いたしまた。》

言っていることは、「医療現場は正に危機的な状況です。もはや時間の猶予はありません」だけである。イ、ロは「言い訳」の見本。ハの「との結論に至りました」も余計な説明。「この状況は……判断いたしました」も余計。そもそも、「正に危機的な状況」で「時間の猶予はない」ひとは、余計なことを書かない。

どうしてこういうことを書き加えてしまうのか。どうしてこういう原稿を、それでいいと思ってしまうのか。そうしたひとの頭の中を思いやると、気が滅入る。「アンパワースピーチ」を書きたければ、「言い訳」を散りばめた「言い訳」体で書くことだ。

「言い訳」を書かないですむ秘訣。これ以上簡単に書けないか、言わないでもよいフレーズはないか、いつもチェックして、チェックして、削っていくことだ。