安倍首相独特の「力みフレーズ」は不要である

安倍スピーチの〔13〕段落は、こんなふうである。

《(1)日本経済を支える屋台骨は中小・小規模事業者の皆さんです。
(2)本当に苦しい中でも、今、歯を食いしばって頑張っておられる皆さんこそ、日本の底力です。
(3)皆さんの声は、私たちに届いています。
(4)皆さんの努力を決して無にしてはならない。
(5)その思いの下に、史上初めて事業者向けの給付金制度を創設しました。》

(1)~(5)は、便宜のためにふった番号である。どれも安倍首相がよく使う決めフレーズの数々だ。

この〔13〕段落は、「修正A案」では、こうである。

《中小・小規模事業者の皆さんにも現金を給付します。(後略)》

言っていることは、これだけなのだから、シンプルにこう言えばよい。

ではなぜ、(1)~(5)をつけ加えるのか。中小企業が「日本経済を支える屋台骨」だとも、「日本の底力」だとも「皆さんの声は……届いてい」るとも「努力を無にしてはならない」とも、思っていないと誰かに思われていないか。心配になって、ついつけ加えてしまった。要は自分の心配のため、くどくどと書き込んでいる。つまり「言い訳」だ。

こんなふうに思われてしまうのなら、(1)~(5)は逆効果で、やめたほうがよい。でもこの原稿を書いたひとは、聞き手を感心させる「決めフレーズ」のつもりで書いている。私に言わせれば、その気持ちだけが空回りしている「力みフレーズ」である。

そのほかの「力みフレーズ」の例。

〔14〕段落の《今回の緊急事態宣言は、海外で見られるような都市封鎖、ロックダウンを行うものでは全くありません。そのことは明確に申し上げます。》の、「そのことは明確に申し上げます」は、典型的な「力みフレーズ」。

〔17〕段落の《この二カ月で、私たちの暮らしは一変しました。楽しみにしていたライブが中止となった。友達との飲み会が取りやめになった。行きたいところに行けない。みんなと会えない。かつての日常は失われました。ただ、皆さんのこうした行動によって多くの命が確実に救われています。》の、「楽しみにしていたライブ……かつての日常は失われました」の部分。「親しみやすさ」感、「一般人」感を出そうとしたのだろうが、いかにも軽い。「多くの命が確実に救われています」の、命の厳粛さとまるで釣り合わない。「親しみやすさ」感を出さねばとだけ思ってしまった「力みフレーズ」だ。

安倍スピーチのオリジナル版は、ざっとみて三○%が、「言い訳」や「力みフレーズ」でできていたことになる。