サービスの対価としてチップを払う習慣が根付いているアメリカでは、客がチケット販売業者にチャージ料を支払うのが当たり前となっている。チケット販売業者はプロモーターから販売手数料を取ることもあれば、まったく取らないこともあり、ケースバイケースだ。

一方、日本では正規のチケット販売業者はプロモーターから手数料はもらっても、客から購買手数料をもらうことはなかった。唯一の例外が違法のダフ屋だ。

橋本の発想の抜きん出ている点は、チケットセゾン事業で長年業界にどっぷりと浸かりながらも、慣習を当然と思わず疑問に感じ、それを変えようとしたところにある。本当に客から手数料は取れないのか、取れないのなら手数料を負担したくなるような仕組みを作ればいいのではないのか。アメリカ流を日本にそのまま持ち込むのは無理でも、日本流に置き換えてやればいい。こんな思考プロセスから生まれたプレオーダーは、できてしまえば実に合理的なシステムである。

まず、イープラスか一般発売日の2週間~3カ月ほど前に、客にメールで公演情報を流すと、チケットを入手したい客からオーダーが入る。このオーダー情報を持って、プロモーターのところに行き、「ほらほら、こんなに注文が入っていますよ」とデータを示し、「手数料は低くても構わない、買い取ってもいいですよ」と条件を提示する。平均すると手数料は3%程度だ。折り合ったところでプロモーターからチケットを仕入れたら、抽選を行い、当選した客にチケットを販売し、350円~450円の手数料を負担願うという流れである。

橋本は言う。

「お客さんにとっても、相手(プロモーター)にとっても。もちろん自分たちにもいい。三方良しの仕組みがプレオーダーです」

在庫を持たないプレオーダーは
三方良しの合理的なシステム

プレオーダーが、近江商人の家訓「買い手良し、世間良し、売り手良し。三方良し」のサービスなのか。ここで検証してみたい。

購買手数料を負担させられる客にメリットはあるのかといえば、「ある」と断定してしまおう。手数料ゼロが客にとってプラスだとは限らない。消費者は金を払ってでも欲しいモノは手に入れようとする。これは真理だ。ヤフーオークションを見ればよくわかる。人気チケットがどれだけ値を上げて競り落とされていくことか。手数料さえ払えば欲しいチケットが一般発売より前に手にはいるのだから、満足度は高い。抽選に漏れても一般販売の機会が残されている。もし先に入手できれば安心安全。「先行販売」はファン心を巧みにくすぐる。