「客から手数料は取れない」は本当か?

橋本のイープラス構想は、本当に店を多く持つことが必要なのかという疑問から生まれている。

「どんなに店があっても、チケットをただお客さんに売るだけで、その人は何が好きなのか、どんなチケットを買ったのかという履歴が残らない。お客さんのネットワークがあって各自の履歴が把握できれば、店はなくてもビジネスはできる。趣味・思考がはっきりしていてリピートして買うことが多いチケットは、ワンツーワンマーティングにもっとも適した商材です。そして、このワンツーワンマーティングはネットでしかできない。イープラスはネットでやる必然性がありました」

チケットセゾンはメンバーズ制度も敷いていたが、1回チケットを取れるとメンバーズから抜けてしまう会員が多く、その数はどんなに増えても7万人どまり。会費が3365円かかっていたため、会費無料のイープラスより会員数が少ないのは当然だが、それにしてもたったこれだけ、という印象はぬぐえない。

当時の会員の年間購入回数は平均1.6回。もし、会員の購入履歴に合わせてピンポイントで販促をかければ、もっと購入回数は伸びる。会員数も増えるはずだ。橋本の頭の中で、「無店舗」「会員制」「顧客データベース」の3つの柱で支えられた基礎の仕組みができ上がった。ここによい商品を持ってくれば恐いモノなしだ。

「この商売はよい商品があるところにお客さんが集まってきますからね。ブランドとか知名度は関係ない。無名で立ち上げても必ずよい商品さえ持ってくれば成功するはずだという確信がありました。じゃあ、どうやってよい商品を集めるのか。ここがスキームの肝心の部分で、チケットをどうしても欲しいお客さんから手数料をもらおうと考えた。これがプレオーダーの発想です」

イープラスには、好みのアーティストや俳優、劇場やライブハウスなどの会場名、J-popやミュージカル、芝居などのジャンルをあらかじめ指定しておくと、マッチした公演の情報がメールで届く「e+★チェック」をはじめ、いくつも画期的なサービスがあるが、中でもプレオーダーは最大の目玉。会員を増やし、販売力を高める効果は絶大だ。簡単にいえば、公演内容を告知し、一般発売に先駆けて客が事前に購入申し込みをする先行抽選販売制度だが、ポイントは抽選に当たった客がイープラスに購買手数料を払う点にある。