それに店舗まで交通費を払って出かけることを考えれば、400円前後の手数料などたいした負担ではないともいえる。チケットが取れてもいないのに購買手数料を取られるのならそれは詐欺だが、取れた時だけならば問題はない。「買い手良し」は成立している。ただし、あくまで欲しい商品が揃っているという前提あっての話である。

「世間良し」の「世間」とはこの場合、プロモーターを指す。彼らにとってメリットはあるや否や。これも「ある」と見た。イープラスからもたらされる事前の注文量が会場のキャパシティを遙かに超えていれば、早い段階で追加公演の手配が可能になるからだ。男女比や年齢など購入客のだいたいの属性がわかれば、たとえば、公演前に販売するグッズの品揃えにも応用できる。

もちろん、当のイープラスのメリットは大きい。それもてんこ盛りなので、二重丸の「売り手良し」。プロモーターからの販売手数料はかつての8%から平均3%に下がったが、客から購買手数料をもらうことで、利益の確保が可能になった。

仮に5000円のチケットを1万枚さばいたとしよう。従来の仕組みなら、プロモーターから8%の手数料をもらい、そこから店舗に販売手数料を4%支払うと、手元に残るのは、5000円×1万枚×4%で200万円だ。一方のプレオーダーはどうか。プロモーターには手数料として3%もらい、客には購買手数料として350円を負担してもらうとすると、プロモーターからは5000円×1万枚×3%で150万円が、客からは350円×1万枚で350万円が入り、トータルで500万円の売り上げとなる。店がないので、店舗に払う手数料はゼロ。丸々イープラスの取り分だ。

在庫を確保してから売りをスタートさせる従来の仕組みと違って、在庫を持たずに販売ができるので、1年先の商売も可能だ。さらに、いったんオーダーリストが手に入れば、次回からはそのリストに販促をかけるだけで、確実なオーダーが見込める。

「たとえば、サザンのコンサートのチケットを2万枚仕入れるとして、オーダーが40万人来たとしましょう。販売できるのは2万枚だけですが、1回で40万人のデータが確保できるわけですよ。次はもう宣伝はいりません。この40万人にピンポイントでメールを送り、呼びかけるだけでいい。店舗じゃないんですよ。重要なのは顧客の数なんですよ」

その後、エンタテインメントプラスは、ソニーとクレディセゾンを味方につけ、売上げ、会員数ともに右肩上がりを続けている。業界再編の可能性も示唆する橋本社長の語る「チケット販売業界のこれから」は、プレジデント社刊『論より商い』(三田村蕗子著)にてお読みください。

※本連載は、プレジデント社刊『論より商い』(三田村蕗子著)からの抜粋です。

(撮影=向井 渉)