変化球が通用しない経営者である。手の込んだ演出のプレゼンなど、時間とお金の無駄だろう。

「経営とは数字である。同じく仕事も数字である。人が動く、ものが動くと数字は必ず動く。数字とは結果であり業績を表す。同じ数字でも、前年比何%といった率は実態を隠してしまう。絶対値でなければ本質は見えてこない」

ここまでの話だけを聞けば、鈴木修とは欧米企業の経営者のような数字に対して絶対のタイプかと勘ぐってしまう。

<strong>スズキ 鈴木修会長兼CEO</strong><br>1930年生まれ。中央大学法学部卒。中央相互銀行を経て、58年鈴木自動車工業入社。67年常務、73年専務を経て、78年社長。2000年会長となる。記者会見などではきわどい質問を巧みなジョークでかわして会場を沸かせる。
スズキ 鈴木修会長兼CEO
1930年生まれ。中央大学法学部卒。中央相互銀行を経て、58年鈴木自動車工業入社。67年常務、73年専務を経て、78年社長。2000年会長となる。記者会見などではきわどい質問を巧みなジョークでかわして会場を沸かせる。

だが、一方で「ハート・ツー・ハート」という言葉に代表される・浪花節・型の経営も鈴木修の真骨頂である。ハート・ツー・ハート、すなわち「心と心とが通じ合う」といった意味だが、スズキは国内販売における業販比率が8割と、ダイハツ工業の約5割と比べても高い。業販とは、自動車修理業者を中心とする街の自動車販売店を指す。スズキとは資本関係はない。両社をつないでいるのは、人間・鈴木修を起点とするハート・ツー・ハートである。業販店の子息を浜松のスズキ本社で修業させるのをはじめ、毎年全国各地で販売店大会とセットの大宴会を定期的に開催しているのだ。

業販店店主が鈴木修に言う。「浜松で修業していた息子が、もうすぐ帰ってきます。しかも、スズキの女子社員と結婚するんで2人で帰ってくることになりました」「ほぅ、そりゃよかった。めでたいことですな。で、帰ってくるのは本当に2人なの?」「イヤ、イヤ、会長、実はフィアンセのお腹にもう1人いるので、3人なんですよ」。

業販店主を前にした鈴木修が行う講話の“18番”のひとつだ。資本や数字を超えた情により、両社は結びついている。

数字に基づく「理」と、人間関係を大切にする「情」のバランスをとっているのは、鈴木修の“カン(勘)ピュータ”でもある。

「人は五感で何かをつかめる。五感は行動によってしか鍛えられない。科学的じゃないという人もいるだろう。しかし、行動を重ねながら五感で体験をしていくと、勘は当たるようになっていく」

2004年9月に日本で生産開始した小型車スイフト。発売前にそのネーミングを変えたほうがいいのではという議論が挙がった。スズキは00年に・初代スイフト・を販売したものの、さして売れなかったためだ。しかし、鈴木修は「ウチのような小さな会社が、ちょくちょく名前を変えると(ブランドイメージが)拡散してしまう」と一蹴。その勘は見事に当たった。今年5月、スイフトは世界の累計生産台数100万台を突破する念願の小型車のヒット商品になったのだ。