子供たちの養育費と妻の生活費として毎月10万円を支払う

そこには、離婚調停、別居中の生活費である婚姻費用調停を申立てる旨と、妻、子供に接近禁止を求めると書かれていた。仁志さんは弁護士に相談し、家庭裁判所に子供の引き渡し審判と、子の監護者指定審判を申し立てた。

仁志さんは子供に自由に会えなくなってしまったが子供たちの養育費と妻の生活費として毎月10万円を支払っている。

妻側に不貞行為があったのだから、仁志さんは「当然、親権はとれる」と考えていた。しかし、実際は違う。離婚問題に詳しいレイ法律事務所の松下真由美弁護士がこう解説する。

「妻が子を連れて出ていって時間も経っているとなると、仁志さんが親権を取れる可能性は5%もないと思います。家庭裁判所は、よき妻であることと、よき母であることは別として考え、親権者を決める際に子の福祉を一番重要視します。妻が不貞行為をしたからといって、ただちに男性側が監護権、親権を獲得できるわけではありません。子供に対する監護実績や監護能力等を比較し、父母のどちらと生活することが子の福祉に資するかという点で判断をします。つまり、夫と妻のどちらが、より、子供たちの世話をしていたか、また、今後世話をできるかということですね」

なぜ「連れ去り勝ち」が横行しているのか

仁志さんは妻と同居中に、子供のお風呂、歯磨き、寝かしつけや、妻が仕事の日は一日、面倒を見るなど育児にも積極的に参加していたが、今回のケースではさらにもう一つ、妻側が有利な事情があるという。

「妻が現に子供と生活している点です。子供の環境を無理に変えることは、子供にも負担がかかります。そのため、家庭裁判所は、現在の子供の監護状況に問題がなければ、現に子供と同居している親を親権者に指定する傾向が強いんです。調停や裁判が長引けば長引くほど、子供は現在の環境になじんでいき、妻側が有利となってしまいます。今回の事案は、妻側に育児放棄や虐待のような事実がない限り、仁志さんが親権を獲得するのは難しいかもしれません」(松下真由美弁護士)

つまり、親権争いになった際、自分が不利になると思ったら、子供を連れ去り、監護実績を積み重ねる。そして、調停、裁判にできる限り長い時間をかければ、子供が環境に馴染んでいると認められ、親権獲得に有利な状況となりうるのだ。これは男性が子供を連れ去った場合も同じ。このため“連れ去り勝ち”が横行しているといわれる。