「出生前診断」を希望する妊婦が増えている。産科医の室月淳氏は「晩婚化が進み、出産の高齢化が進んでいる中で『赤ちゃんの不安』を抱く人が目立つようになった。しかし、リスクがどの程度以下であれば安心して分娩できる客観的な基準はない」という——。

※本稿は、室月淳『出生前診断の現場から 専門医が考える「命の選択」』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

妻の妊娠、出産を心配する男性
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「出生前診断」の相談増の背景にあるもの

病院を受診して、医師から「妊娠ですね。おめでとうございます」といわれた瞬間から、これまでずっと望んでいた幸せな妊娠生活が始まります。始まるはずなのですが、しかし実際はうれしさよりも、さまざまな不安がおしよせてくることのほうが多いかもしれません。

つわりをはじめとした体調不良に悩み、流産のリスクに不安になり、きたるべき陣痛や分娩の痛みにおびえ、あるいは仕事や人間関係の調整に苦慮し、出産や育児費用について頭を悩まします。昔から「案ずるより産むが易すし」といわれてきたように、実はこれらのことの多くはやってみればなんとかなるものです。

しかし最近は、こういった不安のなかで「赤ちゃんの心配」とでもいうべきものが目立つようになって、産科医療機関では「出生前診断」の相談が増えてきています。

昔にくらべると、妊娠・分娩の平均年齢がだいぶ上がった現在では、たしかにそのような心配が多くなっているのかもしれません。それでは「赤ちゃんの心配」とは具体的にはどういうことでしょうか? 妊婦さんはいったいなにを「不安」と感じているのでしょうか?