染色体疾患の子の妊娠リスク

絨毛じゅうもう生検がおこなわれる妊娠10~11週、羊水検査がおこなわれる妊娠16週、赤ちゃんが生まれる妊娠10カ月の臨月のそれぞれの時期における、ダウン症候群の年齢別頻度を表にまとめました(表1)。

母体年齢と21トリソミー(ダウン症候群)の 出生時および胎児期の頻度

このときの母体年齢とは分娩予定日の時点での年齢を意味しています。これらの数字は遺伝学の有名な教科書(※)などを参考にしたものです。

筆者註:R.J.Gardner, G.R.Sutherland and L.G.Shaffer, ed. "Chromosome abnormalities and genetic counseling" 4th ed, Oxford University Press, New York, 2012

この表を見ると、たとえば妊婦が35歳のとき、ダウン症候群の子どもの頻度は妊娠10週で190分の1、妊娠16週で250分の1、分娩時では340分の1となっていて、妊娠週数が進むにつれて頻度が下がっています。すなわち妊娠10週から妊娠満期にいたるまでに、半数近くのダウン症候群の子どもが流産や死産などによって亡くなっていることがわかります。

母体妊娠年齢のリスクを考えるときは、それがどの時点での数字であるかに注意することが大切です。35歳の妊婦さんが、190分の1(妊娠10週での頻度)と説明されるのと340分の1(出産時での頻度)と説明されるのでは、感じとられる印象がだいぶ変わるかもしれません。出生前診断ではいろいろな説明のしかたがありますが、ふつうは羊水検査をおこなう妊娠16週でのリスクで説明されることが多いようです。

ダウン症候群のリスクはごく一部

確率の考えかたというのは中学や高校の数学で勉強しますが、慣れないとなかなかピンとこないものです。たとえば250分の1の頻度であるとき、人によっては0.4パーセントといわれたほうがわかりやすかったり、1000人に4人としたほうがわかりやすかったりします。

場合によっては、250人のうち249人はあたらないといわれるほうが実感しやすいかもしれません。確率のもつ意味を理解するためには、いろいろな理解しやすい表現に直して考えてみるのがいいでしょう。出生前診断の説明や遺伝カウンセリングを受けているときは誰でも最初は緊張しますので、紙に書いて説明してもらうのもいいと思います。

年齢のリスクを考えるときにもうひとつ注意しなければならないことがあります。生まれた赤ちゃんがもつ先天的な病気というのは、当然のことですが、染色体の病気だけではないことです。

たとえば生まれつきの心臓の病気というのは、生まれてくる子どもの100人に1人くらいにあります。こういった内臓の疾患だけでなく、手足や指の問題や代謝や免疫といった機能障害、発達の遅れなどといった先天的な病気をすべてあわせると、赤ちゃんの3~4パーセントくらいになんらかの病気があるといわれています。

ダウン症候群のリスクはそのなかのごく一部ということになるでしょう。出生前に胎児染色体の検査を受けて正常という結果だとしても、「安心」できるのは数字的にはその一部にすぎないというわけです。