最も多い動機は「高齢妊娠」の不安

出生前診断を希望されるかたの動機としてもっとも多いのは、高齢妊娠といわれるものです。女性の社会進出が進み、結婚年齢も上がっているためか、高齢での妊娠や分娩自体はいまや特別のことでもめずらしいことでもなくなっています。

しかし高齢妊娠はそれ以下の年齢にくらべていろいろな点でリスクが高いことも事実です。たとえば、生まれてくる子どもの染色体疾患の頻度は、妊婦の年齢とともにゆるやかに上昇していくことはよく知られています。

日ごろから高齢妊娠のリスクについてまわりから聞かされたり、あるいはネット上に書かれていることを読んだりしていると、生まれてくる子どもになにかしら病気があるのではとみなが不安になります。

ところが興味深いことに、実際にどの程度の頻度で染色体疾患の子が生まれてくるのか、自分の年齢では具体的に何パーセントのリスクなのかを知っているかたはあまり多くありません。

ご存じのとおり35歳以上を高齢妊娠とすることが一般的です。35歳における21トリソミー(ダウン症候群)の頻度というのは、おおざっぱにいって300人に1人くらいといわれています。300分の1という数字にどういった印象を受けるでしょうか?

20代での1000人に1人にくらべるとずっと高いようにも思えるし、また300回妊娠したなかで1人しか生まれてこないと考えるとまず大丈夫のような気もする、といった微妙な数字かもしれません。個人個人でそのとらえかたはだいぶ変わってきそうです。

年齢別リスクを正しく理解するために

いま35歳におけるダウン症候群の児の出生頻度を300分の1と述べましたが、実はこの数字には注意が必要です。インターネットなどで調べるといろいろな数字が出てきます。高いものでは250分の1、低いものでは450分の1という頻度が出てきて、倍近くも違うので一般の人はしばしば混乱します。

これほどの差が出てくるのは、妊娠中のダウン症候群の胎児の流死産率が高く、妊娠のどの時期か、あるいは出産時かによって、その頻度が大きく変わってくるためです。

胎児の染色体の病気というのは実はめずらしいものではありません。受精したときには受精卵の10~20パーセントの割合で存在していて、その多くはその後の妊娠の進行とともに流産したり死産となったりします。

ダウン症候群の子どもは一般に800~1000人に1人の割合で生まれ、この数字は人種や子どもの性別にかかわらずほぼ一定ですが、やはり受精した当初はこれよりもくらべものにならないほど高い割合で存在するといわれていて、その後の妊娠の経過でそのなかの80パーセント以上が流死産で失われるといわれています。

受精時には存在したダウン症候群の胎児のなかで、妊娠の10カ月間をとおして順調に発育し、臨月(妊娠満期)で生まれてくることのできた20パーセント近くの子どもは、ダウン症候群のなかでもとくに選ばれた強い生命力をもっているといえるのかもしれません。

ですからダウン症候群の子どもといっても、妊娠16週くらいにおこなわれる羊水検査であきらかになる頻度にくらべると、妊娠満期まで生存して生まれてくる頻度は30パーセントくらい低くなります。