放送界最高齢として知られる東京MXテレビの後藤亘会長(87)が、自分の古巣でいまも名誉相談役であるエフエム東京を呑み込む両社統合を狙っている。MXではバラエティ番組『欲望の塊』をめぐって死亡者のでるトラブルが起きたばかり。東京を拠点とする2つの放送局でうごめく策謀とは――。(取材・文=チーム「ストイカ」阿部重夫、伊藤博敏、樫原弘志)

MXテレビの事実上の親会社はエフエム東京だが…

2000万円相当のスーパーカー「ランボルギーニ」を景品にして、他愛ないゲームを東京・歌舞伎町のホストたちに競わせるバラエティ番組『欲望の塊』を放映した東京MXテレビ(東京メトロポリタンテレビジョン)が、ツイッターの告発で炎上している。

死人まで出たこの不祥事は、実は単なる番組の粗製乱造の問題だけではない。MXにドンとして君臨する87歳の後藤亘代表取締役会長が、自分の古巣でいまも名誉相談役であるエフエム東京(TFM)を呑み込む両社統合を狙ったが故に軋みが増幅したとも言えるからだ。

子会社をめぐる不適切な会計処理について記者会見するエフエム東京の黒坂修社長(中央)ら=2019年8月21日、東京都千代田区の同社本社
写真=時事通信フォト
子会社をめぐる不適切な会計処理について記者会見するエフエム東京の黒坂修社長(中央)ら=2019年8月21日、東京都千代田区の同社本社

もっとも、同一エリアで放送免許を得ているテレビ局同士の合併は、総務省令が定める「マスメディア集中排除原則」では認められない。後藤氏がめざすテレビとラジオの合併も、どちらも特定地上認定基幹放送事業者で、本来なら合併は認められないはずだが、放送法に詳しい識者は「民放連はローカル局の経営不安を理由に、水面下で合併を認めるよう総務省に働きかけている。テレビ局とFMラジオ局の合併はそれよりハードルが低い。結局は総務省のさじ加減次第で決まる」と指摘する。

要は、電波を司るお上の機嫌を損ねては放送事業者は何もできない構造なのだ。ところが、MXの筆頭株主で実質親会社であるTFMでは昨年、83億円の粉飾決算が発覚、会長や社長ら取締役陣交代劇が起き、制作現場が荒廃するなどMXと同じく組織の動揺が起きている。放送界最高齢の会長が進めるこのスキーム自体が無理筋だからではないのか。