TFM新社長の黒坂修氏は、子息がMXテレビに勤務中

調査委によれば、約100億円を投資したデジタルラジオ(i‐dio)は端末の普及が進まず、累積赤字の子会社を千代前社長の知人の会社への「飛ばし」で期ズレさせて連結対象から外したという。ほかにも金銭信託や大がかりな循環取引があり、1990年代バブル破裂期を彷彿とさせる手口のオンパレード。これだけ悪質だと刑事責任も問われかねず、調査委が再発防止策とコンプライアンス強化だけで賠償請求を提案していないのが不思議なほどだ。

新経営陣の顔ぶれをみると、後藤氏に近い人脈が目立ち、早くから「自作自演のクーデター」説が流れた。後藤氏子飼いとされる西川守監査役が、本来なら監査責任を問われる立場であるにもかかわらず副社長に返り咲いたが、以前からMXに通う姿が目撃されており、内部告発者とは監査役当人ではないかと社内で噂されている。新社長の黒坂修氏も、全国FM放送局で構成するジャパンエフエムネットワーク(JFM)社長から昇格したが、子息がMX入りしており、後藤氏には異を唱えられない立場にある。

冨木田・千代体制が一掃されたのは、今年米寿を迎える後藤氏とどんな角逐があったからだろうか。新経営陣が撤退を決めたi‐dio事業は、後藤氏がTFM社長だった時代からの肝いりプロジェクト。16年にスタートしたものの、その赤字が毎期の決算に反映されていないことを、勝手を知る後藤氏が気づかなかったとは考えにくい。尻ぬぐいしていた冨木田・千代体制が、弱みを暴かれて放逐されたのではないのか、と内部関係者は見る。

ラジオとテレビのトップを40年以上も続ける「ドン」

MXはもともと東京都と東京商工会議所が鈴木都政時代の1993年に設立した東京ローカルのUHFテレビ局である。東商証副会頭の藤森鉄雄氏(第一勧業銀行元会長)が初代社長に就いたが、独自アンテナの制約もあって経営不振で、藤森氏周辺の伏魔殿にたまりかね、旧郵政省の仲介でTFMに都などの保有株の一部を譲渡して後藤氏に立て直しを任せた。

後藤氏は旧郵政省の前身、逓信省の官僚だった松前重義氏(東海大学創立者)の元秘書である。TFMの前身である東海FMに入り、89年にTFM社長に就任、以来ラジオとテレビのトップを40年以上も続けている。

後藤時代のTFMは、マクドナルドと組んだマックビジョンや、NTTとの合弁事業「iiV CHANNEL」など、コンテンツ不足が祟って死屍累々だった。不透明な事後処理が今回の粉飾の土壌になった、と一部関係者は見る。