頭抜けた米国、総合力の欧州、蓄積依存のロシア
では、宇宙開発主要国の現状はどうなっているのか、概観してみよう。
米国は、宇宙開発の技術力において世界一であり、当分この座は揺らがないと思われる。米国の強さの理由として、これまでの宇宙開発の実績、宇宙開発資金の豊富さ、斬新なアイディアを産み出し実現するシステム、安全保障を最重要任務と考える国の政策、科学技術や産業技術レベルの全般的な高さなどを挙げることができる。
旧ソ連によるスプートニクの打ち上げやガガーリンの初有人宇宙飛行などで、屈辱的な敗北を味わった米国は、アポロ計画などによりソ連を完全に圧倒した。人工衛星を用いた宇宙利用においても、通信放送、航行測位、気象観測、地球観測などのあらゆる分野でその先鞭をつけている。さらに各国がほとんど行っていない太陽系の外惑星などの探査や、高性能なハッブル望遠鏡を宇宙に据えるという画期的な手段で、世界の宇宙科学を牽引してきている。
欧州は、総合力で優れている。欧州の場合、フランス、ドイツ、英国など、いずれも一カ国ではロシア、日本、中国などの国に劣ると考えられるが、欧州宇宙機関(ESA)として資金や人材を共有できている。宇宙市場規模も一カ国では中国や日本などに劣るものの、欧州全体では米国をも凌駕する。欧州には科学技術や産業技術の歴史と蓄積があり、これがロケットや人工衛星の開発において、米国に劣らない競争力を有している理由となっている。また、ESAとは別にフランスなど各国が、自国の宇宙開発機関で軍事的な開発を独自に進めている点にも注意を払う必要がある。
旧ソ連は宇宙開発の先鞭を付けた国であり、その後も宇宙開発のいくつかの場面で米国を凌駕した実績も有している。しかし、ソ連が崩壊し経済的に不況に陥ったため、宇宙活動の縮小を余儀なくされた。プーチン大統領の登場と資源価格高騰によりロシア経済は持ち直したが、宇宙開発への投資は増加していない。現在のロシアの宇宙開発にとって、スプートニク以来の圧倒的な蓄積が財産となっている。
ロシアの宇宙技術を評して枯れた技術と呼ぶ人が多いが、これまでの蓄積に大きく依存しているからである。現在のロシアの経済規模は小さいが、それでも軍事技術開発はそれなりの規模となっている。しかし、将来にわたって、米国や中国、あるいは欧州全体と競争していくには、資金面で足りないと考えられる。
日本は、欧州と並んで総合力は高いと評価されている。研究開発資金が小さいにもかかわらず総合力で優れているのは、日本の科学技術や一般産業の技術力の強さによる。例えば人工衛星バスや通信放送衛星などを設計・製造する場合の部品や材料で、世界的にも競争力のあるメーカーが日本国内に多く存在している。
また、科学分野のレベルも高く、近年のはやぶさの宇宙からの帰還は世界を唸らせた。日本の大きな課題は宇宙開発規模である。米国はもちろん、欧州、中国に比較して研究開発資金や市場の規模が小さい。