当然クビを切るのも北京で、中国では3つの条件のどれかに当てはまれば市長はクビになる。1つ目は経済成長7%以下を3年続けること。2つ目は自分のテリトリーで起きたストライキや暴動を放置すること。これは一発でアウト。中国では国防予算より、公安予算のほうが大きいのだ。そして3つ目は汚職・腐敗。本人が汚職をしても、部下がやってもどちらもダメ。一昔前まではそれも建前で汚職が横行していた。贈収賄の抜け道として編み出されたマカオのカジノを利用したマネーロンダリングだ。しかし、習近平+おうざんの指導部が反腐敗キャンペーンに乗り出してからそれも使えなくなった。

以上、市長がクビになる3つの条件だが、逆に言えば3つの条件に抵触さえしなければ、ほかは自由に何をやってもいいというのが中国の地方自治の素晴らしさだ。日本の霞が関のような中央集権的な規制がないのだ。土地をどう使うか、建物をどれくらいの高さにするか、街をどうやって発展させるか、財源をどうするか、自分で自由に決めることができる。「おまえに権限を与えたのだから自由にやれ。その代わり7%成長できなかったらクビだぞ」というわけだ。

アドバイスすると数年後に実現する

私はいくつかの都市の経済顧問を拝命して実際に仕事をしてきたが、「アドバイスすると数年後に実現する」という信じられない経験を何度かしてきている。また、その経験を中国国営放送のCCTVが番組で紹介すると、その都度数十を超える自治体から経済顧問になってくれ、という要請が舞い込む。我も我もという自治体間の競争の激しさは半端ではない。

日本で地方の競争と言えば、霞が関での予算の分捕り合戦を意味する。限られたパイの奪い合いだ。しかし中国の地方都市にパイを奪い合うという発想はない。そもそも北京政府はパイを用意してくれない。中国の市長が目を向けているのは世界。世界から自由にヒト、モノ、カネを呼び込んで発展を競い合う。

成長と発展の原資は土地。中国では土地はすべて共産党政府の持ち物だから、農民から取り上げるのはわけない。それを開発して商業地として世界中に売る。正確に言えばリースするのだが、それで土地の値段は50倍にも、100倍にも膨れ上がる。これが中国共産党の土地マジックだ。

そうやって数百の都市が発展を競い合うことで、中国は加速度的に大発展を遂げたのだ。

(構成=小川 剛 写真=Avalon/時事通信フォト)
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