マスク姿の若者たちを次々と捕まえていく異常さ
若者たちのデモが続く香港で10月4日、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は議会の承認なしに長官の権限で法律を制定できる「緊急状況規則条例(緊急法)」を発動した。緊急法の発動は半世紀ぶりである。
これに基づき、翌5日に「覆面禁止法」が施行され、デモ参加者がマスクやゴーグル、覆面で顔を覆うことが禁じられた。この結果、8日までに計77人の身柄が拘束された。
香港政府は「デモの若者たちが顔を隠していることが警察の捜査を妨害し、デモ隊の暴力行為をエスカレートさせる」との説明を繰り返し、マスク姿の若者たちや学生を次々と捕まえている。
これが政府のやることだろうか。異常である。開いた口が塞がらない。
混乱を収拾するには「話し合い」を重ねるしかない
22年前、1997年8月の香港では、死亡した3歳男児から鳥インフルエンザウイルス(H5N1タイプ)が検出され、人には感染しないと考えられていたこのウイルスが人にも感染することが分かり、世界に衝撃を与えた。その後、香港政府は香港のすべてのニワトリの殺処分を断行し、人への感染を未然に防ぎ、WHO(世界保健機関)など国際社会から大きく評価された。
この鳥インフルエンザ禍のとき、香港政府高官や政府関係者をはじめ、香港のあるゆる人はマスクを付けていた。もしまた大きな問題になったときはどうするのか。
そもそも香港の警察がデモ隊に催涙ガスを浴びせかけるからマスクを着用するのだ。マスクを禁止したところで、デモに香港人口の4人に1人に相当する200万人(主催者側発表)もの市民を動員できるエネルギーを押さえ付けることなどもはやできまい。
中国と香港政府は武力による制圧を国際社会に強く批判されることを懸念し、逮捕者を増やすことでデモを鎮圧しようと覆面禁止法を施行したのだろう。苦肉の策なのだが、中国と香港政府はそこまで行き詰っているのである。
中国も香港政府も何が重要であるかを理解していない。大切なのは市民との対話だ。混乱を収拾するには、何回も話し合いを重ねるしかない。近道はないのだ。