日本社会を「思考停止」という病が覆っている。明日はわが身だ。九電、検察で起きた不祥事を他人事とせず、「企業価値の維持と防衛」のプロの指摘に耳を傾けよう。自分の組織発展の秘訣が自ずと見えてくる。

企業価値の防衛とバッシング最小化

郷原信郎氏
郷原信郎氏

12年7月に発覚した「やらせメール問題」に関する九州電力の第三者委員会をはじめ、私はこれまで、不祥事を起こした組織が設置した多くの第三者委員会に委員長として関わってきた。

第三者委員会には、依頼者側の組織からの独立性の確保と、中立的、客観的な観点からの調査、提言等が求められるが、とりわけ私企業が依頼者の場合には、委員会の目的、活動姿勢、依頼者側の組織の意向との関係などについて、多くの困難な問題がある。

日弁連の「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」は、第三者委員会とは、「不祥事を起こした企業等が、企業の社会的責任(CSR)の観点から、ステークホルダー(編集部注:利害関係者のこと)に対する説明責任を果たす目的で設置する委員会」であるとしている。しかしその一方で、第三者委員会の目的は企業価値の中長期的な維持・防衛にあるとする考え方もある(詳細は、塩崎彰久「第三者委員会ガイドラインの弾力的運用の薦め―企業不祥事調査に関する実務上の留意点―」ビジネス法務2010年8月号)。

私は、かねてから、企業経営とは「需要に応え、利潤を確保することをベースに様々な社会の要請にバランス良く応えること」をめざすことであり、「社会的要請に応えること」としてのコンプライアンスは、企業の経営上の意思決定に包まれるものととらえてきた。

その立場からは、第三者委員会の目的と企業経営がめざすところとは基本的に異ならないのであり、第三者委員会の存在意義は企業価値の維持・防衛を中心に整理すべきだと考えている。

純粋な私企業であれば、不祥事にどのように対処し、それを契機に、どの程度抜本的な改革を行うのかは、経営上の意思決定に委ねられる。経営の結果に責任を負う経営者から委任された第三者委員会の運営方針、調査対象、提言が踏み込む程度については、基本的には経営者の判断を尊重すべきである。