「年収が半分になったイメージです。実は定年前に転職活動をしていたんです。当時の稼ぎより多い年収600万円以上の総務部長として内定しかけたのですが、最後に話が流れてしまったというようなこともありまして……」

65歳まではこのまま働く予定だが、その後の見通しは立っていない。

老後をさらに脅かす存在が現れた

退職金もほぼ使い果たしてしまった。中途入社だったため金額がそれほど多くなかったこともあるが、ここでも想定外のことが続いた。

1つは家のリフォームだ。建て替えてからすでに20年近くが経過している。住み続けるにはメンテナンスが必要だ。業者にチェックしてもらい、外壁を中心に補修してもらうことになった。

「最初は軽自動車1台分くらいの費用との話だったのですが、さらに補修が必要な部分が出てきて、結局、高級セダンが買えるくらいの金額になってしまったのです」

ほかに蓄えのない松井さんは退職金を切り崩すしかなかった。

もう1つは長男、長女の結婚だ。

「特に長女ですね。結婚式はもちろん、買い物に連れ出されるたびにいろいろなものをねだられて。結局100万円単位で援助することとなりました」

実は松井さんには、家のローンを完済するために温めていたプランがあった。それは長男に家を譲り、ローンを引き継いでもらう方法だ。しかし、長男は仕事が忙しく、結婚前から自宅に寄り付かなくなり「この先も戻るつもりはない」と宣言されてしまった。

「それでも自宅を売却すれば、ローンを完済してある程度の資金が手元に残りますから、深刻にならずにすみます」

ところが、ここにきて松井さんの老後をさらに脅かす存在が現れた。19年、長男と長女のところにそれぞれ生まれた孫だ。

「孫にこれほどお金がかかるとは思ってもいませんでした」

一緒に出掛けるたびに洋服やおもちゃを買わされると言うが、松井さん自身も喜んで買っている面もある。これまで孫を溺愛する知人の話を聞いてもまったく共感できなかったが、いざ同じ立場になってみると、気持ちは180度変わったと言う。

「いまは、飲み会に誘われても断っています。お酒を控えて孫に使うお金を確保しなければなりませんから」

老後生活のマネープランを考える際には「孫予算」も想定しておいたほうがよさそうだ。

理解ある妻と小さい家への住み換え検討中
(撮影=岡村隆広)
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