厳しいのは外資系金融マンだけではない。銀行の貸し渋りによる中小企業の倒産も相次いでいる。結婚式から1カ月で夫の会社が倒産、人生が狂った妻もいる。

「リーマンショックで、私の人生は大きく変わりました」と嘆くのは、元起業家の妻マユさん(31歳)。2009年の年明けに結婚したばかりだった。20代の頃は、IT企業勤務のキャリアウーマンとして普通のOLに比べてかなり贅沢な生活をしていたマユさん。彼女が2008年、結婚を決意した相手は起業して10年になる彼(35歳)だった。

「働かないで、家に入ってくれ」

という、古風な彼をサポートする道を選んだマユさんは、仕事を辞めて彼と暮らし始めた。周囲はお似合いのカップルとうらやましがった。

しかし、彼はかなりの浪費家。プラチナカードで十数万円の靴を買い、ローンで買った家具がいつの間にか増えている。入ってくるお金はそれなりにあるが、明らかに身の丈以上の生活を自転車操業でまわしていたのだ。家計を任されたものの、会社のお金とプライベートのお金の境が甘くて把握しきれない。ひたひたと忍び寄る不況の波の中、生活費を1円単位で管理する日々が始まった。

元起業家妻のマユさんの夫は、会社が倒産して自己破産、離婚に至った。「払えるから信じて、という言葉が嘘になったとき信頼がなくなった」。
元起業家妻のマユさんの夫は、会社が倒産して自己破産、離婚に至った。「払えるから信じて、という言葉が嘘になったとき信頼がなくなった」。

それまで2万円以下の靴を買ったことがなかったマユさんが、2000円の靴でも迷ったあげくあきらめるようになった。野菜の皮も捨てずにかき揚げにして食卓に出した。会社が傾いている状況下でも、彼は飛行機がファーストクラスという贅沢なプランでの結婚式を計画した。

「私はエコノミーでよかったのに、彼はファーストクラスにこだわった。最後はケンカをするのに疲れてしまって」

結局、マユさんは費用の400万円を自分の貯金から立て替えることになった。

「ローンは来月で全部払い終わる。カードも必ず払えるから、信じて」

彼にそう言われて「いつか成功する彼だから私が支えなくては」と信じていた。

しかし、式の翌月、ついにカードの支払いが不可能になった。残額は70万円。それまでは、家計が赤字でも会社から補填されて落ちていたが、リーマンショックで体力のない会社は容赦なく淘汰され、完全に破綻したのだ。

「もう自己破産するしかない。幸せにできなくてごめん……」

すべてを失った彼の一言で短い結婚生活は終わり、マユさんは実家に戻った。