屋上に養蜂場がある長野県の井上百貨店

その2 井上百貨店の取り組みにみる地域商社への道

第2は地域商社への道である。地元の隠れた逸品を探し、地方百貨店の新たな定番商品に磨き上げるとともに地域活性化に貢献する道だ。「地方創生」と同じく最近の取り組みと思われがちだが実はそうでもない。

仙台市に本店を構える「藤崎」は、1983年に地域物産振興担当部を新設し、県内の市町村と連携して地場産品を発掘。生産者と一緒にギフト商品を開発するなどしていた。その後かたちを変えながらも、地域振興の精神は今に受け継がれている。今年は仙台市と連携して地域ブランド「都の杜・仙台」を立ち上げた。

地域商社の取り組みで目を見張るのは、長野県松本市の井上百貨店だ。なぜか本店の屋上に養蜂場がある。地元の信州蜂蜜本舗と共同で立ち上げた「松本みつばちプロジェクト」の関係だ。毎夏、養蜂場で採取したはちみつを小瓶に詰め「城町はちみつ」のブランドで限定販売している。

画像提供=井上百貨店
井上百貨店の屋上の養蜂場

あわせて、はちみつを使った新商品を地元企業とのコラボで開発。カステラ、ラスク、チョコレート、ようかんから石けんまで幅広い分野に挑戦してきた。試作と試験販売を繰り返し、中には定番化した商品もある。例えば老舗の山屋御飴所とのコラボで開発した「信州はちみつキャンディ」だ。

「信州フランス鴨のスモーク」も井上百貨店が手掛けた人気商品だ。フランス鴨は、障害のある子供たちの自立支援に取り組む「信州フランス鴨の会」と南安曇農業高校が連携して育てている。これを燻製くんせい加工した製品が商業高校の販売実習プログラム「デパートゆにっと」のブースに並んでいたところ、井上百貨店の井上博文常務執行役員の目にとまった。商品化にあたって井上百貨店は、パッケージデザインなどマーケティング面の磨き上げを支援した。

「百貨店in百貨店」で松本の逸品を県外に広める

地域振興にも一役買っている。塩尻市奈良井で古くから栽培されている巨大フキ、「とうぶき」を中山道の奈良井宿の名物にできないか、地元の女性グループ「桜香(ほのか)会」が商品化に取り組んでいた。それを知った井上百貨店が、日本各地の植物文化を受け継ぐ活動をしている和ハーブ協会(東京)、地元のショコラティエ、松本市を活動拠点とする紙箱作家のAkaneBonBonこと梅川茜氏をマッチング。試行錯誤を経て新製品「とうぶきチョコレート」の開発に至った。2017年12月に奈良井宿売店、井上百貨店で販売したところ好評で、こちらも定番商品になった。

地元の隠れた逸品を探し、磨き上げ、百貨店の店頭に並べるだけでは不十分。目利きした松本の逸品を全国に知らしめるにはどうすればよいか井上百貨店は考えた。そこで出した解が、横浜の百貨店、京急百貨店「大信州展」への出店だった。井上百貨店のブースをしつらえ、百貨店の目利きで自信をもって推薦できる松本の逸品を並べた。もちろん信州はちみつキャンディ、信州フランス鴨のスモーク、とうぶきチョコレートもある。

地元百貨店のブランドで首都圏の百貨店の催事に出店する、いわば「百貨店in百貨店」の取り組みは大変珍しい。

画像提供=井上百貨店
京急百貨店「大信州展」内の井上百貨店ブース

海外や東京の最先端を地元に紹介する、先に述べたセレクトショップとしての百貨店が「輸入商社」モデルとすれば、こちらは「輸出商社」モデルに例えられよう。今でこそ全国的に知られる銘菓も、贈答品としてのブランドが定着した工芸品も、ブレークのきっかけが地元百貨店である例が少なくない。

地元に張り巡らされた情報網、将来のヒット商品を目利きする力、ご当地品に手を加えてブレークさせる力、知名度に劣る逸品にブランドを付与する信用力。地域商社に必要な属性は地元百貨店がもともと備えている。