「一流品の目利き力」こそが強み
とりまく環境が厳しい中、地方百貨店に生き残りの道はあるのだろうか。競争によって奪われたものを奪い返すという発想ならショッピングモールのビジネスを転写するのも一考だ。実際、郊外の大型ショッピングモールに百貨店が出店する例もある。
もっともイオンモールなど既存のショッピングモール業態に一日の長があるのでそう簡単なことではないだろう。撤退した例も複数ある。1990年、広島市郊外のショッピングモールに出店した天満屋アルパーク店は来年1月に閉店する予定だ。
ネット通販で買い物するのが日常になりつつある昨今、郊外のショッピングモールさえ安泰ではない。いわんや旧来の中心市街地にある地方百貨店は歴史的使命を終えたように思われる。しかし、ネット通販が市場を席巻するとはいえ対面販売が滅びることはあるまい。ネットで買っているものも一番初めは目で見て触ってモノを確かめたはずだ。まだ世の中にない新しいモノはネットでは不安だ。
そもそも地方百貨店の強みは何だったか。百貨店のこれまでの経験、長年地元で一番店だったことから積み重ねた信用、一流品の目利き力で定義づけられる百貨店というポジションは、これからも地域社会で必要とされるのではないか。
ふりかえって考えると、昨今の衰退局面に入るまでの間、郊外のショッピングモールとの競争を意識するあまり、百貨店がスーパーマーケット化してしまったきらいはないか。だとすれば、復活のカギは百貨店の強みに立ち返ることにある。この観点から復活劇の可能性をいくつか挙げたい。
「全国から逸品を集める」セレクトショップになる
その1 セレクトショップ化の道
第1はセレクトショップ化の道である。この文脈で筆者が注目するのは日本百貨店と藤巻百貨店だ。いずれも「百貨店」を屋号に据えている。藤巻百貨店は伊勢丹のカリスマバイヤーと言われた藤巻幸大氏(1960~2014)が立ち上げた、“日本の逸品”を厳選したセレクトショップである。バイヤーの目利きにかなった逸品を全国、海外に広める理念が土台にある。
日本百貨店も百貨店を屋号にしたセレクトショップだ。公式サイトのキーワードを借りれば、“ニッポンのモノヅクリ”と“スグレモノ”をテーマに全国から逸品を集め、作り手と使い手の出会いの場の提供をコンセプトに、具体的には実演販売・体験・ワークショップに力を入れた売り場を展開している。2019年9月27日には日本橋のコレド室町テラスに、10店舗目となる「日本百貨店 にほんばし總本店」がオープンした。
そもそも地方百貨店こそ全国から逸品を集めて店舗に並べる業態ではなかったか。沖縄県の百貨店「デパートリウボウ」は創業時の商号「琉球貿易商事」が名前の由来だ。公式サイトの年譜によれば、「海外からの輸入商品や東京の最先端の商品は戦後物資の困窮した県民にとって憧れのまとで、沖縄県民は当時のデパートリウボウの事を『舶来品のお店』と呼んでいた」そうだ。都市の生活文化の文脈とともに国内外の逸品を陳列する百貨店のありよう、地元の顔、地域一番店としての地方百貨店のポジションをよく示している。
デパートリウボウは自社企画のセレクトショップを店内に出店した。本店2階、モノレール側の入り口からすぐのところに、バイヤーが目利きした逸品をそろえた「樂園百貨店」がある。沖縄の人気作家の陶器、アクセサリーなど工芸品を中心に、国内外のアイテムが並んでいる。当初は期間限定ショップだったが、昨年7月から常設となった。10月には同じコンセプトのカフェ「樂園CAFÉ」もできた。