「無印良品 銀座」に見るヒント

その3 いわゆる「コト消費」とは何か

第3のキーワードは「コト消費」だ。これからの百貨店が販売するのは内外の逸品ではなく、逸品が織りなすライフスタイルである。四季折々の催事をのぞく、ギャラリーの絵画展に足を運ぶのも昔からある百貨店の楽しみ方である。ネット通販が当たり前の時代でも、新たな商品との出会いはリアルな売り場でしかありえない。面白い発見を得るために百貨店に足を運ぶシーンを目指したい。

しばしば店舗はメディアに例えられる。この考え方を徹底すると店舗はショールームとなり、婦人服、身の回り品売り場はファッション誌の世界を眼前に再現したテーマパークのようになる。お客さまが実際に購入するのはスマホやタブレットでという割り切りもありえるだろう。こうして店舗はファッションショーなどの展示会に近づいてゆく。

実際、「GUスタイルスタジオ原宿店」など、店内の展示品を見てオンラインストアで購入する店も出てきている。コト消費の文脈で、商品はもはや個人的エピソードを織りなす「要素」になった。「ただ乗り」リスクは覚悟のうえで、商品を入手してその先にある目的を提案し、商品の「ついで買い」を促す様相がますます濃くなるだろう。

コト消費というからには世界観を明確にした売り場づくりだけでなく、その世界観に入り込み、体験することが重要だ。来て見て触って、使わせる。食料品であればレストランでその食材を使った料理を味わう。さらに進めるとすればカギはホテルの併設か。統一した世界観の下、料理、雑貨、家具に囲まれた生活を体験することだ。

4月に開店した「無印良品 銀座」にヒントがあるのではなかろうか。ここの6階から10階にはホテルが併設されている。地下1階にはレストランがあり、どちらも無印良品の世界観を伝えるためのメディアとして機能している。無印良品の発祥は「わけあって、安い」をキャッチフレーズに、包装や生産工程をシンプルにすることで価格を抑えた西友のプライベートブランドだ。

「無印=ノーブランド」であり、内外の逸品を目利きする百貨店とは対照的だ。しかし、無印良品の、モノの持つ本来の機能を引き出すためにそれ以外の要素をそぎ落とすコンセプトがある種の「ブランド」化をもたらしている。この点、セレクトショップ化、地域商社への道を目指す地方百貨店にとって学ぶところが多い。また、無印良品の、世界の人々に「感じ良いくらし」を提案するというミッションには、「コト消費」がシンプルに示されている。地下1階のレストランから上階のホテルまで、一棟全体が「感じ良いくらし」の立体的な提案書と考えると興味深い。

地元百貨店の「ストーリー」が付加価値になる

着眼点は異なるが、先の井上百貨店の取り組みも「コト消費」に対するひとつの答えだ。井上が地域商社の活動で大事にしているのは地元生産者とのつながり、地域そのもののつながりである。お祝い事でもおわびでも通用する井上百貨店の包み紙。地域の顔そのものである地方百貨店が地元を応援する姿に地元住民が共感する。

ビジネスの文脈で言い換えれば、地元百貨店が注力する地域連携の取り組みそのものが商品の付加価値を高めているのだ。付加価値は新技術やアイデアだけではない。ストーリーが第三の付加価値になる。震災復興、温暖化対策、○○選手の応援、何年に一度の○○。人が価値を感じる理由はいろいろある。

井上百貨店が「松本飴プロジェクト」「信州松本カリー名店シリーズ」と称して地元の老舗、名店を盛り上げる取り組みは、そうした取り組みを粋に感じるサポーター消費を喚起し、商品に目新しさ以上の価値をもたらしている。

画像提供=井上百貨店
井上百貨店アイシティ店の特設ブースに並んだ「信州松本カリー名店シリーズ」と井上博文常務執行役員