フェイスブックの誤算

ドルや円などの法定通貨の発行者は国だ。マネーロンダリングの防止、デジタル・テクノロジーを用いた電子決済インフラの導入などに、政府・中央銀行は必要とされるだけの資源を投じることができる。それが情報セキュリティー面をはじめとする法定通貨の安全性、信頼性を担保している。

また、日米などの政府は預金保険制度を運営し、金融機関が経営破綻した際に預金者が著しい不利益に直面しないよう制度を整備してきた。さらに、中央銀行は“最後の貸し手”として金融システムの守護神としての役割を担っている。主要国の政府や中央銀行は、必要なだけのヒト・モノ・カネを投入し、国民が安心できる通貨制度やシステムを整えることができる。それが通貨の信認を支えている。

足許では、フェイスブックの“誤算”も表面化している。米国の電子決済大手ペイパル、クレジットカード大手のビザやマスターカードなどが、運営組織への加盟見送りを相次いで表明した。

その背景には、経済の専門家に加え、各国の金融当局がリブラへの懸念を表明していることなどが影響しているのだろう。参画企業の減少は、発行体制の不安定化に直結する問題といえ、リブラの信用性そのものに無視できない影響を与えるものとみられる。

社会的な信用もカギになる

リブラがどう流通していくかも不透明だ。法定通貨には、“強制通用力”がある。強制通用力は、通貨の流通に欠かせない。わが国では、日本銀行法の第46条第2項にて、日本銀行券は法貨として無制限に通用することが定められている。国内での資金の貸借を例に考えると、債務者が円の支払いによって資金の返済を申し出た場合、債権者は受け取りを拒否できない。

これに対して、リブラには強制通用力がない。国が発行し、法律によってその強制通用力が定められていない以上、人々はリブラによる決済を拒否することができる。フェイスブックがリブラの利用をユーザーに勧めたからといって、それが万人に受け入れられるわけではないだろう。

この点に関しては、フェイスブックの社会的な信用も大きく影響するはずだ。2016年の米国大統領選挙戦にて、フェイスブックはロシアの介入を招いた。さらに、2016年春ごろに同社内ではロシアによる介入疑惑が指摘されたにも関わらず、2017年秋まで事実の公表が遅れた。