通貨として“価値の安定”という根本的な課題

6月18日、フェイスブックはドルやユーロと“一定の”比率で交換可能な暗号資産リブラを開発し、2020年にリブラを用いた金融サービスを開始すると発表。リブラには、価値が一定であることのほか、民間の企業が参加した運営団体が管理を行うといった特徴がある。これは、特定の管理者を置かず、その価値も不安定なビットコインとは対照的だ。

まず、リブラの価値が本当に安定するか否かを考えてみたい。結論を先に述べると、フェイスブックの主張の通りリブラが価値の安定性を実現・維持していくことはかなり難しいと考えられる。

経済学の理論では、基本的に、通貨には“交換の手段”“価値の尺度”“価値の保存”の3つの機能がある。これらの機能が発揮されるためには、通貨の価値が安定していなければならない。例えば、今日1000円で購入できたモノの値段が、翌日5000円に急上昇するなど通貨の価値が大きく変動すると、人々はその通貨を用いて取引や貯蓄などを行うことをためらうだろう。

通貨価値の安定は、経済の安定に直結する問題といえる。そのために各国の中央銀行は、金融政策を通して“物価の安定”と“金融システムの安定”に努めている。また、各国の政府は税収などを通して財政を運営し、国債の信用力を維持・向上しようとしている。中央銀行と政府の政策があるからこそ、円や米ドルといった各国の法定通貨の価値が一定に保たれている。

具体的な方策は示されているか

これに対して、フェイスブックはドルやユーロなどの通貨や米国債などの資産を裏付けにすれば、リブラの価値を安定させることが可能だと主張している。この発想には初歩的かつ致命的な問題がある。

国債の価格は、需給や経済環境などによって大きく変化する。各国通貨の為替レートは、国債の価格以上に大きく変動する。資産を裏付けにすれば、価値の安定性が実現可能とはいえない。もし、裏付けにしていた国債などの価値(価格)が急落した場合、どうやってリブラの価値を一定に保つか、具体的な方策は示されていない。

リブラを発行・管理するのは民間の組織だ。フェイスブックは民間企業の参加を募り、リブラの発行組織(リブラ協会)を運営しようとしている。政府や中央銀行と異なり、民間企業には予算や収益性などの制約がある。その中で、法定通貨と同等の価値の安定性、取引の安全性などを確立することは、口で言うほど容易なことではないはずだ。

いつ、いかなる状況下であっても、民間企業が必要とされるだけの経営資源を、無尽蔵にリブラにつぎ込むことは難しいだろう。追加の対応が必要になった際、どのように参画企業の利害調整を進め、必要な措置を、的確に、ユーザーが納得できる形で実行できるかも不透明だ。