ドイツやフランスも50年前は日本並みの長時間労働だった

長時間労働は勤勉な日本人の国民性であり、意識を変えることは難しいという意見もあります。しかし、労働時間が短く、バカンスを楽しむ国という印象があるドイツやフランスも、実は60年代はアメリカよりも労働時間が長く、日本とほとんど変わらない状況でした。

それがオイルショックで失業率が上がり、ワークシェアリングの発想が広く普及したことから、一人当たりの労働時間が少しずつ減少していきました。それがきっかけで長期休暇を楽しむという文化が生まれ、結果的に時間当たりの生産性が向上したという研究もあります。

時間はかかるかもしれませんが、法改正や、個人、職場、企業、経営トップのそれぞれのレベルでの改革を粘り強く続けていくことにより、国全体で労働時間に対する意識が変わる可能性はゼロではないのです。

「カネがもらえるほどよく働く」は間違いだった

なお、長時間労働を是正するために、働いた時間と報酬を切り離し、成果(出来高)に応じて報酬を払うほうがいいという意見もあります。はたして本当なのでしょうか。米国の実験経済学の分野で、成果報酬と生産性についてのユニークな研究があります。被験者たちに難度の高いコンピュータ・ゲームをしてもらい、得点1点につき受け取る報酬が高額なグループ、報酬がわずかなグループ、その中間のグループという3種類のグループを作ってプレーしてもらうという実験です。

各グループの平均点を比較したところ、高得点だったのは、意外にも報酬が最も少ないグループでした。2番目は報酬が中間のグループ、そして最も平均点が低かったのは高額報酬グループでした。高額報酬のグループは、そのことを意識して失敗を恐れ、大胆な作戦が取れなくなり、対して報酬がわずかなグループは、ゲームそのものを楽しむことができた。内発的動機付けが奏功し、「報酬と成果は比例する」という単純な発想とは逆の結果となったのです。

また、別の研究では、エンジニアが申請する特許件数に金銭的インセンティブをつけた場合、申請件数自体は増えたものの、大きなクリーンヒットが出なくなるということも報告されています。創造性や革新性が要求されるような仕事には、単純な外発的な動機付けはむしろ、マイナスとなる怖れがあります。働いた時間と生産量が一対一対応していない仕事が増えている現代だからこそ、内発的な動機を促すような労働条件や職場環境の整備が不可欠になっているといえます。

(構成=Top Communication 写真=PIXTA)
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