労働時間が週50~55時間以上は「ワーカーズ・ハイ」

我々の研究では、メンタルヘルスは長時間労働で悪化する一方、労働時間が週50~55時間以上になると仕事満足度は上昇する傾向にあることもみえてきました(図)。

いわゆる「ワーカーズ・ハイ」のような状態になっている可能性が示唆されます。仕事に没頭している間は満足度しか自覚せずについ長時間労働をしてしまい、メンタルヘルスが毀損していることに気付きにくい側面があるともいえます。

週50時間以上の労働時間は、生産性にも影響を与えます。経済学では、インプットをするほど、1単位のインプットに対するリターンがどんどん小さくなる「限界生産性の逓減」という考え方があります。労働時間も最初のうちはリターンが大きく、だんだんリターンが小さくなっていくと予測されていましたが、それに関する研究はほとんどありませんでした。

それが近年、経済学者のジョン・ペンカベルが1930年代の英国の軍需工場のデータを検証した結果、週当たりの労働時間が50時間を超えると、限界生産性が大幅に低下することを示したのです。また、休日出勤した日の翌週は、限界生産性低下が、週50時間よりも早いタイミングで訪れることもわかりました。

これらのエビデンスからは、長時間労働をして休息をとらない状況が続くと、本人が気付かないうちに心身の健康を損ねるリスクは増し、同時に生産性も低下することが示唆されます。

欧州への赴任で労働時間が大幅に短縮

日本人の働きすぎは、何十年も前から指摘され、是正の必要性が唱えられてきましたが、長時間労働社会は長らく続いてきました。今回も変わらないのではないかという意見もあります。「上司や同僚が残っているから帰りにくい」など、残業を前提とした社会規範や職場風土が確立してしまっていることがその理由のひとつとしてしばしばいわれてきました。

日本は変わっていくことはできないのでしょうか。職場の雰囲気が働き方に強く影響することを示すエビデンスを、ひとつ紹介しましょう。