提供=Barber the GM
来店客を散髪する様子

——年収700万円というと、平均年収の倍以上です。なぜそのような高い目標を立てたのですか。

人が辞めないお店を作りたかったからです。もともとこの業界は、他の業界に比べて給料が安い傾向があります。安い給料で働き、ある程度育つと独立するために自分のお客さまを連れて辞め、お店とモメる……そんな話を聞いたことはありませんか?

それって結局、スタッフが給料面や雇用条件面で満足していないから起こるんですよね。だったら、独立しても1000万円稼げるかどうか分からない中で、700万円を安定して稼げるお店を作ればスタッフは辞めないのではないかと思ったんです。

売り上げの60%がスタッフの報酬に

——どうすればそれほど高い報酬を支払えるのでしょうか。

今この業界では、「面貸し」がはやっています。オーナーが理美容師と業務委託契約を結び、施術する席(場所)や設備を貸す代わりに、売り上げの何割かを払ってもらうという仕組みです。これを参考に、当社も理容師と業務委託契約を結び、自分で稼いでもらうスタイルにすることに決めました。

次に、一般的な利益配分がどうなっているのか調べてみたところ、割合はさまざまですが、1番スタッフの取り分が高かったのが「美容師70%、お店30%」というもの。しかし、この場合は美容師が備品の準備から集客まで自己負担ですべてを行うという条件だったため、美容師の負担が多いと感じました。

僕は、スタッフには本来の仕事である「散髪する」ことに専念してもらいたかったので、場所や設備・備品の準備、集客などの煩わしいことはすべて会社で行おうと思ったんです。

そのポリシーをもとに、スタッフに最大限利益を還元するためには当社の取り分をどれくらいにすれば利益を出せるのか……家賃や光熱費・材料代などを計算してみると、売り上げの40%が残れば大丈夫だということが分かりました。

そこで、一般的な理美容室の面貸しの還元率は売り上げの30~50%ですが、当社では60%をスタッフに還元することにしたのです。スタッフにやりがいを持ち、安定した生活を送ってもらえるよう当社の負担をより多くしています。

さらに、万が一売り上げがなくても安心して生活していけるように、月額30万円を保障しています。

——業務委託を嫌がる理容師もいるのでは。

いないですね。「前の店は社会保険があったので少し不安です」という人はたまにいますが。

国民健康保険や国民年金は自分で支払わないといけませんが、それらを差し引いても今まで以上に手元に残っているようです。実際スタッフからは「生活が変わりました」とよく言われます。

当社のスタッフは理容師という「職人」なので、いい髪型を作りたいとか、お客さまに喜んでもらってまた来てもらいたい、という気持ちが根底にある人たちばかりです。

GMはお店の雰囲気を含め、お客さまにすべての面で満足していただき喜んでもらうことを徹底しているので、スタッフは金銭面だけではなく、仕事のやりがいも感じてくれているようです。

オープン初日は“ゼロ人”だったが……

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「本町店」の外観

——本町店、肥後橋店に続き、2019年8月には梅田店をオープンしました。順調に事業を拡大していますが、業績は最初から好調だったのでしょうか。

最初の半年間はずっと赤字でした。1号店のオープン前は、何もしなくてもお客さまに来ていただけるだろうと思っていたんですが、ふたを開けてみたら、オープン初日の新規のお客さまはゼロ。慌ててホームページを作り、リスティング広告をかけて、Facebookも始めて……それでもお客さまはなかなか増えなかったです。

イケるかなという感覚がでてきたのは、オープンしてから4カ月くらい後のこと。その間は、毎月の売り上げ表を見るのもイヤでした(笑)

当時は経営陣も手探りだし、店は暇だし。スタッフのモチベーションも下がり、店の雰囲気がダラけたものになっていました。先の展望も見えないし、何もかもがめちゃくちゃな状態だったので、正直、いつ店を閉めようかと思っていたんです。