ナイキの異様な執着、各ブランドの熾烈な「ソール開発」

ソールは、スポーツシューズにおいて根幹ともいえる部分だ。ミッドソールの素材は1970年代からエチレンビニールアセテート(EVA)という軽量でクッション性に優れた合成樹脂がベースになった。

そのなかでナイキは1979年に「エア」という衝撃吸収剤を使った商品を出し、世の中をあっと言わせた。「エア」が外部から見えるデザインとなったシューズ「エアマックス」はスニーカーブームを引き起こした。

一方、アシックスも1986年に「ゲル」という衝撃吸収剤で対抗。ランニングシューズとして広く浸透し、「ゲルカヤノ」シリーズを軸に日本だけでなく海外でも大変人気を集めた。

「エア」「ゲル」の戦い以降、30年以上は、ソール開発に大きな動きはなかったが、2013年にアディダスが「ブースト」という新たなテクノロジーを発表して各社のソール開発が活発になる。

EVAではなく、TPU(熱可塑性ポリウレタンエラストマー)を発泡させて粒子状にして加工したもので、クッション性だけでなく反発力もあり、劣化も少ない。「ブースト」を使用したシューズを履いたウィルソン・キプサング(ケニア)らがマラソンの世界記録を塗り替えたこともあり、市民ランナーのハートをつかんだ。

「ソール」はブランドのアイデンティティである

そして近年はナイキの躍進が目立つ。「ズーム ヴェイパーフライ 4%」などソール内に軽くて硬い、薄型のカーボンファイバープレートが入った厚底シューズを履いた選手たちが世界各地のレースで大活躍。昨年9月のベルリンマラソンではエリウド・キプチョゲ(ケニア)が世界記録を2時間1分39秒まで引き上げた。

最近はアシックスが参入するなど、他メーカーもナイキを追随するように、「厚底モデル」を仕掛けつつある。また元祖厚底といわれているフランス生まれのブランド、ホカオネオネの国内人気も高まっている印象だ。

アディダス、ニューバランス、ミズノという老舗メーカーだけでなく、オン、アンダーアーマーという日本国内ではニューウェーブといえるブランドも続々と新シューズを発表している。また、「自然な走り方」をコンセプトにしたゼロドロップ型(ヒール部分と爪先部分の厚さがほぼ同じ)が中心のアルトラというメーカーも注目されている。

写真提供=ナイキ
「ジョイライド」のプロダクト開発には3年の歳月がかかった

ただ、各メーカーはさまざまなシューズを展開しているが、ナイキほどソールの種類は多彩ではない。「ジョイライド」のプロダクト開発には3年もの歳月がかかっており、客観的に見てもナイキはシューズのアイデンティティであるソール作りに、他社以上に執念を燃やしているように映る。

他メーカーのソールとの違いは、そのバリエーションの差だけではない。機能・デザイン同時“イノベーション”を通りすがりの人が見てもわかるようビジュアル化させていることだ。機能だけでなく斬新なデザインもランナーたちの心を躍らせる要素になっている。