ちなみに、この上海宏力半導体製造有限公司の共同出資者である王文洋氏は、売り上げ7兆円を誇る世界第7位の石油化学大手「台湾プラスチック・グループ」を創業し、「台湾の松下幸之助」とも言われた故・王永慶氏の長男である。これを見れば、上海閥が台湾にもコネクションを築いていることがわかる。

つまり、深いビジネス上のつながりをもち、習近平政権と対立するという意味で、上海閥と米国エスタブリッシュメント層の利害は見事に一致しているのだ。こうした図式の中で、上海閥と親しく、同時に習近平政権にも警護チームを送られて首根っこを押さえられていた金正男氏が、みずからの生き残りのためにCIAと中国情報機関の両方に対し、相手の欲しがる情報をそれぞれ提供していたとしても、何一つ不思議ではあるまい。

米情報機関を出し抜いたトランプ

トランプ氏の電撃訪朝は、冒頭述べたようにトランプ氏自身のかねてからの野望の現れと見ることができよう。しかしそれ以上に、米国務省や各情報機関を押さえている「反トランプ派」の米国エスタブリッシュメント層による妨害を、可能な限り防ぎたいという動機もあったはずだ。

通常の外交ルートを通じた交渉では、トランプ氏の行動は逐一反トランプ派に流れてしまい、強力な対抗手段を講じられてしまう。稿を改めるが、2019年2月の在スペイン北朝鮮大使館襲撃事件が良い例だ。トランプ氏は2度とこの過ちを繰り返さないため、極秘裏に38度線での3度目の首脳会談を準備し、韓国の文在寅政権が「再び自分たちの活躍のチャンスが来た」とばかりに、その実現に向け奔走したのだろう。

今回、突然の米朝首脳会談を知った米国エスタブリッシュメント層は激怒したに違いない。トランプ氏の周辺に身を置き、その外交政策に介入しようとしてきたネオコン系高官らにとっても、この話は寝耳に水であったはずだ。対北朝鮮強硬派でネオコン系のマイク・ポンペオ国務長官が、6月28日夜のG20の夕食会を突然キャンセルしたのは、おそらくそれが原因であったのだろう。

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