米国と中国というスーパーパワー同士の覇権争い

トランプ米大統領が日米安全保障条約について、「日本には米国を防衛する義務がなく、一方的な条約で不公平だ」と主張し、波紋を広げている。

トランプ氏は6月26日に「日本が攻撃されれば米国は日本を守る。しかし、米国が攻撃されても日本は米国を助ける義務がない」と発言。6月29日のG20閉幕後の記者会見でも「(日米安保の破棄は)全く考えていない」としながら、同じ主張を繰り返している。トランプ氏は、日米安保が一方的に日本に有利で“片務的”だと考えているのだろう。

会談を前に握手するトランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席=大阪市住之江区、2019年6月29日(写真=Avalon/時事通信フォト)

この発言を理解するためには、単純な経済的負担などだけではなく、世界の政治・経済・安全保障の情勢が変化していることを頭に入れる必要がある。重要なことは、基軸国家(覇権国)としての米国の地位の低下だ。経済・政治・安全保障などの面で米国の地位が圧倒的であれば、恐らく、トランプ大統領のような発言はなかったかもしれない。

ところが、米国の地位は相対的に低下している。トランプ氏の本音は「それに見合った負担にしたい」というものだろう。特に、近年の中国の台頭で、米国の覇権国としての地位は揺らぎつつある。米中の通商摩擦は、米国と中国という世界のスーパーパワー同士の覇権争いだ。

中国の拡張主義の防波堤となってきた日本

中国が高成長を遂げ、南シナ海や新興国各国に対する影響力を強めてきた。オバマ政権はそうした中国の拡張主義を見て見ぬふりをしてきたが、トランプ政権ではそれができなくなっている。世界情勢は大きく変化しているのである。

日米安保は、米国が覇権国としての役割を維持するために重要な役割を果たしている。これまでわが国は、米国の要請に応じ譲歩や協力を行ってきた。特に中国の拡張主義の防波堤となってきた。その意味は決して小さくはないはずだ。

2016年の大統領選挙以前からトランプ氏は、日米安全保障条約は片務的(米国の負担のほうが大きい)と主張し、米軍の駐留費を全額負担するよう公言してきた。大統領再選を目指すトランプ氏は、安保をカードにわが国との通商交渉を進め支持率を上げたいところだろう。