米中双方が「引くに引けない状況」にある
米中の通商摩擦の激化と長期化懸念が高まっている。米中両国の通商問題に関する溝は一段と広がっており、容易には妥協点を見出すことが難しいだろう。
また、5月15日、米国政府が中国の通信機器最大手、ファーウェイに対する米国製製品の輸出禁止に踏み切った影響も軽視できない。中国政府は、IT先端企業を中心とした産業振興策である「中国製造2025」を推進している。この政策を通して、中国は5G通信機器、IoT(モノのインターネット化)に関するテクノロジー、AI(人工知能)などの分野で覇権を強化したい。ファーウェイは「中国製造2025」の中核企業だ。
すでに中国は米国に対して自国の主権を尊重するよう警告した。一方、米国は第4弾の制裁関税(3250億ドル程度)の準備を進めて中国に圧力をかけ、譲歩を引き出そうとしている。双方、引くに引けない。
米国ではファーウェイとの取引停止を受けて業績見通しを下方修正する企業も出ている。ファーウェイの業績悪化も避けられず、中国経済の減速懸念もさらに高まるだろう。米中通商摩擦は世界経済全体にとって無視できないリスクだ。
国家資本主義の根幹にかかわる中国の補助金政策
昨年12月の米中首脳会談以降、中国が米国に譲歩し、近く両国の通商問題が妥結に向かうとの楽観が増えた。中国は外国企業に対する技術の強制移転を禁止する法律を定め、国有企業への補助金の削減などを合意文書に盛り込むことで米国と折り合いをつけた。それをもとに両国は、150ページに及ぶ合意文書の作成にあたった。4月下旬まで、米中は共同して文書を作成した。その状況を受け、トランプ米大統領は合意が近いとの見方を示した。
しかし、5月に入り中国の習近平国家主席は突如として姿勢を硬化させた。理由は、党内の批判や不満が高まったからだ。共産党幹部にとって補助金政策は国有企業の成長を通して自らの権力基盤を固めるために欠かせない。すでに中国が投資に依存した経済成長の限界に直面する中、補助金政策は地方経済の下支えにも欠かせない。
この考えから、共産党主導による経済運営を重視する保守派の意見が強まり、米国に譲歩するのは弱腰だとの主張が勢いづいた。当初、改革派の劉鶴副首相の譲歩案(補助金削減)を認めていた習氏は、自らの権力基盤の強化のためにも、保守派に配慮せざるを得なくなった。
習氏は交渉の全責任をとるとの姿勢を明確に示し、7分野150ページにわたる合意文書から法的措置などに関する記述を削除し、105ページにまで文書を圧縮させた。その上で、中国は文書を米国に一方的に送付したのである。