中東・アフリカなどから熱烈歓迎された「一帯一路」

米国の地位低下傾向を考える際、2013年、インドネシアで開催されたAPEC首脳会議の出来事は象徴的だった。当時のオバマ大統領は予算をめぐって共和党保守派との利害調整に難航した。オバマ氏は国内事情を優先し、アジア各国との関係強化を後回しにしてしまった。この会議において国際社会は、米国の地位低下を強烈に認識したといえる。

その虚を突くようにして、中国は「一帯一路」(陸路と海路からなる21世紀のシルクロード経済圏構想)を提唱し、自国を中心に世界繁栄を目指すと声高らかに宣言した。米国がリーマンショック、および、その後の世界経済の低迷を引き起こしただけに、習近平国家主席の意思表明は、アジア新興国や中東・アフリカ各国から熱烈に歓迎された。

中国の提唱は、米国の同盟国にとっても喉から手が出るほど欲しい成長へのチャンスに映った。2015年には米国の重要な同盟国の一つである英国が、何の前触れもなく中国が設立を提唱したアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を表明した。その後、仏独伊が相次いで参加を表明した。

米国の内向き志向は一段と強まっている

これは、米国の求心力が弱まっていること、つまり覇権国としての地位が低下していることを示す顕著なケースといえるだろう。トランプ政権下、米国の内向き志向は一段と強まっているように見える。この状況が続くと、米国は安保面を中心に、わが国に対してさらなる要求を突きつけるだろう。

現在、中国では債務問題がかなり深刻化している。一方、朝鮮半島では韓国経済が失速しつつあり、北朝鮮は米国から譲歩を引き出して体制維持の時間を稼ごうと躍起だ。この状況の中、日米安保は極東地域の安定に欠かせない。

トランプ大統領の見解に対して、米国政府内では安保条約を見直す可能性は低いとの見方が多いようだ。ただ、今後も米国の地位が低下し続ければ、世論が同盟国により大きな負担を求める可能性はある。その展開を念頭に、わが国は、米国に対して安全保障条約の重要性と双務性を丁寧に説明し、より強固な信頼関係を目指すべきだ。