2019年2月にベトナムのハノイで開かれた2度目の米朝首脳会談は、事前の融和的ムードから一転、トランプ米大統領が席を立つ形での「決裂」に終わった。危機管理コンサルタントの丸谷元人氏は、「アメリカの情報機関が、会談が決裂するように意図的に仕込んだのではないか」という――。
2度目の米朝首脳会談はなぜ決裂に終わったか
2019年2月27日と28日の両日、ベトナムのハノイで開かれた2度目の米朝首脳会談。この会談に向けたトランプ大統領の姿勢は、当初は驚くほど融和的なものであった。米国本土に届く大陸間弾道弾の破棄さえやれば、核兵器の廃絶は段階的に行えば良いとでも言わんばかりのトーンであり、トランプ氏はその間に北への制裁緩和を言い出すのではとする危惧を抱いた専門家も多かった。
だが蓋を開けてみると、当初のムードは一転。28日の昼食会は中止され、米大統領府は「今回は何の合意もなされなかった」という声明を発表。2時間前倒しされた記者会見で決裂した争点を説明したトランプ氏は、そそくさと大統領専用機に乗ってベトナムを離れた。トランプ氏が態度を一変させたのは、いったい何が理由だったのか。
会談のわずか5日前の2019年2月22日、スペインのマドリードにある北朝鮮大使館に、武装した「非常に暴力的」(『エル・パイス』紙、2019年3月28日)な10人の男が押し入る事件が発生した。男たちは館員を拘束して暴行を加えたのち、パソコンなどの情報機器を盗み出した。
この襲撃を行ったのは、金正恩政権の打倒を目指す「千里馬民防衛」なる組織である。彼らの襲撃の狙いは、元駐スペイン北朝鮮大使で、金正恩氏の命令を受けて秘密裏にトランプ政権との直接交渉を担当していた金革哲(キム・ヒョクチョル)米担当特別代表に関わる情報であったとされており、実行犯チームはその襲撃によって得られた情報を、2月27日の米朝首脳会談の前日にFBI(米連邦捜査局)に提供したと、後にネット上で表明している。