そうして迎えた2度目の米朝首脳会談では、あれだけ核やミサイル問題について融和的な発言をしていたトランプ大統領の態度が急変。米国側が突然、核施設や弾道ミサイルと発射装置、関連施設の「完全な廃棄」を金正恩氏に求めたため、交渉は決裂した。正恩氏は、直前まで融和的であったトランプ氏の態度の急変に相当慌てたと想像するが、それにはやはり在スペイン北朝鮮大使館で得られた何らかの極秘情報が影響を与えた可能性が強い。

大使館襲撃の実行犯と名指しされた「プロ」

米朝会談が決裂した翌日の3月1日、襲撃を行った「千里馬民防衛」は、名称を「自由朝鮮」と変更。同月にはマレーシアにある北朝鮮大使館への落書きを行うなどの「謀略工作」を行っている。この組織が初めて公に知られるようになったのは、金正男氏が殺害された直後にマカオから台湾経由で第三国に脱出した正男氏の息子、金漢率氏が、ビデオ声明を出した時であった(2017年3月)。同組織はこの脱出を支援したとされており、金漢率氏は今やCIA(米中央情報局)の庇護のもと、米国内に居住していると言われている。

一方、襲撃の現場となったスペインの警察当局は激怒し、事件に参加した男たちの氏名や監視カメラの映像を公表して、国際指名手配した。その中で明らかになったのは、この10人の男たちのほとんどは米国内に居住し、軍事訓練を受けていた韓国系米国人であるということだ。

中でも実行犯の中心人物と判明したのは、「自由朝鮮」の代表でもあるエイドリアン・ホンという、イェール大学出身でメキシコのパスポートを持つ35歳の韓国(北朝鮮?)系男性であった。ホン氏はいくつかの情報機関と接触があるとされており(『エル・パイス』紙、2019年3月28日)、過去にはカダフィ政権崩壊直後の混乱するリビアにて、ヨルダン政府と共同で「難民支援」を行うとの名目で足跡を残すなど、いかにも情報機関の工作員らしい動きを見せている人物だ(スペイン当局はホン氏を「北朝鮮系の傭兵」と呼んでいる)。

このホン氏は、スペイン大使館襲撃の直前になんと日本を訪問し、日本国内の人権活動団体と接触したこともわかっている。ホン氏はそこで、米国に亡命中の金漢率氏の保護を求めるために日本政府関係者と面談をしたいと希望したが、日本側の人権団体幹部はホン氏を連れて行くことで逆に日本政府側から怪しまれることを恐れたため、政府への紹介はしなかったようだ(『NK NEWS』2019年4月24日)。