上海閥の息のかかった地方軍閥が北朝鮮のバックにいるという現実を見れば、金正恩政権と習近平政権の間に存在する、ただならぬ緊張関係が理解できよう。つまり、北朝鮮が好き勝手にミサイル発射や核実験を強行することは、米国本土に核ミサイルが届くか否かという問題以前に、習近平政権が北朝鮮(+旧瀋陽軍区)を全くコントロールできていないとの印象を拡散し、習政権の指導力に疑問符をつけるという政治的効果を伴う。その背後には常に、江沢民率いる上海閥がいると考えれば、この構図はとてもわかりやすい。

上海閥のアメリカン・コネクション

そしてもう一つのポイントは、こうした中国国内の権力闘争と、アメリカ国内の権力闘争がリンクしているということである。上海閥の形成を裏で支援したのが、現在トランプ大統領と激しく対立している米国エスタブリッシュメント層であるからだ。

ここでいう米国エスタブリッシュメント層とは、共和党/民主党を問わず、特に第二次世界大戦後に米国政財界を牛耳ってきた一部のファミリーや企業体を指す。親米的で多国籍企業とのビジネスを重視する上海閥は、そうした層の中でも米証券大手ゴールドマン・サックスや、アラブの春やカラー革命などを通じて世界中での政権転覆に関わってきた著名な投資家ジョージ・ソロス氏とも親しいことで知られている。

例えば、江沢民氏の孫で、今や50兆円を越えるとされる一族の資金を管理している江志成氏は、米ハーバード大学を卒業した後、2010年から約一年間ゴールドマン・サックスにて勤務している。ジョージ・ソロス氏は2019年1月のダボス会議で、習近平国家主席を「自由社会における前代未聞の危険な敵だ」と呼んでおり、トランプ大統領に対しても「ペテン師で嘘つき」「独裁者」などと呼んで非難したこともある。

さらに上海閥は、同じく反トランプ派で米国エスタブリッシュメント層の象徴的存在であるクリントン家やブッシュ家とも親しい関係を築いている。例えば、旧瀋陽軍区内において北朝鮮への密輸のハブとなっている丹東港の開発で実力をつけ、日林実業集団の会長となった王文良氏は、クリントン財団に2億円以上の選挙資金を提供していた。

また、先述した江沢民氏の息子・江綿恒氏が設立した上海宏力半導体製造有限公司は、2002年にはブッシュJr大統領の弟であるニール・ブッシュ氏の会社と200万ドルでコンサル契約を締結。ブッシュ氏が役員会に出席するごとに1万ドルの報酬を支払う取引を交わしている。