報告書の狙いは「高齢者の貯蓄を投資に振り向けたい」

この報告書は、年金制度そのものについて書いたものではない。金融庁が、高齢者の貯蓄を投資に振り向けようという意図を持って書かれたものだ。

そのためには「今のままではお金が足りないので投資に振り向けて増やしたほうがいい」という方向に誘導したい。だから「足りない」という前提を、てらいもなく書いたのだろう。

2012年に首相に返り咲いて以来、安倍氏は6年半を超える長期政権を謳歌しているが、2006年に最初の首相に就任した時は1年の短命で終わってしまっている。「消えた年金」が主要因として07年の参院選で大敗したのが辞任の引き金となった。

「消えた年金」とは、社会保険庁のずさんな事務管理にともない、記録のない年金が次々に見つかった問題。この問題を追及した民主党(当時)の長妻昭氏は後に「ミスター年金」と呼ばれるようになった。

永田町では「消された報告書」問題と呼ばれている

「消えた年金」と今回とは性格は全く違う。ただし、安倍氏は、国民の年金についての関心が極めて高いことを身に染みて覚えている。しかも「消えた年金」の被害者は一部の人だったが、今回の報告書は、あまねく全国民に影響してくる。それだけに恐れおののいているのだ。

初期消火を図ろうという政府の姿勢は、どうにも異常だ。まず報告書は、まだ金融審議会の総会を通っていないことを理由に「公式な文書ではない」と説明。麻生氏は「今までの政府の政策スタンスとは違う」として報告書を受け取らないと宣言した。

森山裕自民党国対委員長に至っては、野党からの予算委員会開催要求に対し「報告書はもうない。なくなっているのだから予算委になじまない」と報告書の存在を「完全消去」してしまった。しかし、報告書は今も簡単に閲覧できる。恐らく多くの国民がプリントアウトし、それを読んで憤慨していることだろう。

いつからか今回の件は「消された報告書」問題と呼ばれるようになった。「消えた年金」を想起させるネーミングであることは言うまでもない。