適用疾病が拡大すると、医療費が増大する

キムリアが投与できる疾病は、がんの一種である「B細胞性急性リンパ芽球性白血病」と「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」のうち、これまでの薬が効かなくなった難治性のものだ。ノバ社によると、患者の数は最大で年間216人。だが今後、キムリアの適用が拡大されて対象の疾病が増えると、それに比例して患者数と医療費も増大する恐れがある。

薬代を含めた医療費の患者の自己負担割合は、1割~3割だ。さらに所得などに応じて払い戻される高額療養費制度が適用されるから、年収500万円の会社員の場合、キムリア投与の自己負担額は40万円程度になる。

つまり高額医薬品の支払いに充てられるのは、国民皆保険制度のもとで私たちが蓄えた保険料だ。国民医療費は2014年度に年間40兆円を超え、その後も増え続けている。医療保険の制度が壊れてしまう前の対策が、必要である。

年間3500万円だったオプジーボは4分の1まで下がった

「3000万円超」という薬価の決め方も不透明だ。キムリアは免疫細胞を使ったまったく新しい薬だけに、比較できる類似薬がない。そのため薬価は製薬研究などでかかった費用を積み上げて導き出されたが、ノバ社は詳しい内訳を示していない。キムリアの公的保険適用を審議した中央社会保険医療協議会(中医協、厚労相の諮問機関)でも、製薬の透明性の欠如が問題視された。

私たちが支払う薬価に透明性がないとは、驚きである。

最初に高額医薬品として問題になったのは、がんの免疫治療薬「オプジーボ」である。オプジーボは2014年に皮膚がんの治療薬として公的医療保険が適用された。その時点で、患者1人あたりの総医療費が年間3500万円かかると、高額な薬価が注目にされた。それでも患者数が470人ほどで少なく、医療費圧迫には至らなかった。

ところが翌年に一部の肺がんの治療でも保険が適用されると、医療費が増大し薬価の見直しが進められた。2017年2月に薬価が半額まで引き下げられるなどしてオプジーボの薬価は現在、当初の4分の1となっている。